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福祉や医療現場で広がる美容ケア
「口紅はどの色を付けましょうか」

認知症の女性に口紅を塗る様子(イラスト)09年10月下旬、高齢者が入所する神戸市内のケアハウスの一室で、化粧ボランティア「shin・shinハッピークラブ」のメンバーが、約20色の口紅を並べた化粧パレットを差し出すと、認知症の女性の顔がパッと輝きました。「この色がいいわ」。指さした色を、リップブラシで唇に付け鏡を見せると、女性は「ありがとう」と満足そうにうなずきました。

同クラブは08年4月に結成しました。メンバーは神戸市人材センターが主催した化粧ボランティア講座の修了者で、50〜60代の主婦14人です。1年間、プロのメーキャップアーティストにテクニックを学んだ後、09年春から同市近隣を中心に活動を始めました。

「お似合いですよ」鏡を見て「あらっ」喜ぶおばあさんの様子(イラスト)出張メークが縁で、今は四つの高齢者施設から定期的に依頼を受けています。1人月2000円の会費から化粧品代なども工面するため、運営費のやりくりは楽ではありませんが、代表の女性は「寝たきりでもパジャマ姿でも、女性はいつまでもきれいでいたいと思う。その願いをかなえる手助けをしたい」と話しています。

美容と福祉を結びつける動きも始まっています。山野美容芸術短大(東京都八王子市)は99年4月、日本初の「美容福祉学科」を開設しました。3年制で美容師と介護福祉士の資格を取得し、福祉の知識をもつ専門家の育成を目指しています。また、同年には日本美容福祉学会も設立されました。介護の知識と技術がある「美容福祉師」の養成を始め、これまで509人が資格の認定を受けました。

美容ケアにより元気になった認知症の女性(イラスト)同短大の野澤桂子教授(心理学)らは04年度、北里大病院に入院中の女性のがん患者90人に、定期的に化粧などの美容ケアを行い、ケアをしなかった患者と精神状態を比べました。その結果、ケアをした患者は「怒り・敵意、混乱」といった負の感情が早く低下し、「活気」が上向く傾向が出ました。野沢教授は「高齢者や患者は社会から切り離されがちだが、美容ケアは他者の目を意識し、自分の社会的役割を思い出すきっかけになる高度な社会的行為です。リハビリに積極的に参加するようになったり、徘徊(はいかい)が収まったという報告もあります」と効果を強調しています。

西南学院大では、09年2〜5月、高齢者施設に入・通所する認知症女性15人に月3回程度の化粧をして、その都度、自画像を描いてもらいました。精神科医や芸術療法の専門家と協力し、使った色の数や塗り方、顔の部位の位置、大きさなどを調べました。すると、徐々に使う色の数が増えたり、描き方が丁寧になったほか、リハビリにも落ち着いて参加するなどの効果が見られました。実施した大学院研究生は「美容ケアが精神面の安定をもたらし、コミュニケーションやリハビリへのやる気を引き出す一つのきっかけになったのでは」と分析しています。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2009年12月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。