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映画の音声ガイドが広がっています
視覚障害の人は映画を鑑賞する際、セリフなどの音声しか楽しめませんでしたが、映像を言葉で説明する「音声ガイド」のサービスが広がっています。劇場公開ではまだ少ないものの、市民団体などが独自に音声ガイドを作り、障害者向けに「バリアフリー上映」を進めています。イメージが膨らみ、作品を理解しやすいと好評です。

「緑に囲まれた日本家屋」「前庭の木が、家よりも大きく育っている」——。上映前に配られたラジオのイヤホンから、スクリーンの風景を描写する声が流れてきました。セリフと重ならないよう、間合いが工夫されています。今年7月、東京・神保町の岩波ホールでドキュメンタリー映画「遥かなるふるさと 旅順・大連」が音声ガイド付きで上映されました。

どういう状況なんだろ? 視覚障害者が映画を観ている様子(イラスト)視覚障害者でNPO理事長の男性(65)=東京都世田谷区=は、仕事で何度も大連を訪れたことがあり、作品に興味がありました。「ガイドがあるから楽しめた。人物の表情や映像の背景も説明してくれるのがいい」と話していました。

カウンセラーの女性(55)=東京都大田区=は盲導犬とともに鑑賞しました。映画好きで、視野が狭くなり始めた30代には「見えるうちに見ておこう」と映画館に通い詰めました。見えなくなってからも音声だけで楽しんでいましたが、セリフのないシーンは何が起きているか分かりません。バリアフリー上映に出合い、「中途障害の人は頭の中で映像をイメージしやすく、情報があればより詳細に描ける」と喜んでいます。

「遥かなる……」の音声ガイドは、東京都北区のボランティア団体「シティ・ライツ」(会員約200人)が制作しました。上映前に作品を借りてガイドを作り、映写室から発信します。観客はFM88.5メガヘルツでラジオを聴く仕組みで、他の客の邪魔にはなりません。

音声ガイドを1本録音するには、会員10人程度のグループで約2カ月間かかります。単に「花が咲いている」と言うよりも、「雨上がりに花が重たそうに垂れている」とイメージしやすく表現します。視覚障害者に聴いてもらい、何度も修正します。時代背景も織り込み、障害のない人も楽しめるガイドを目指しています。制作した音声ガイドは400本を超えました。

音声ガイドを聞きながら視覚障害者が映画を観ている様子(イラスト)月に4回ほど、視覚障害者の会員を交えた映画鑑賞会を岩波ホールや川崎市川崎区の「チネチッタ」などで開いています。録音の音声ガイドだけでなく、会員が活弁士のように映像を語る「ライブ方式」のガイドにも取り組んでいます。

代表の平塚千穂子さん(38)は、映画館で働いていた00年ごろ、視覚障害者の鑑賞イベントを企画しました。「見えない人に映画の話をするのは失礼かと思っていたら、みんな映画を見たいと熱望しながらあきらめていた」と言います。

米国では封切り作品にも音声ガイドが付いていると知り、「シティ・ライツ」を設立しました。「みんなで調べ物をしながらガイドを作るのは楽しい。映画を通して障害のある人もない人も友達になれる。楽しんでいる姿を見て、業界が変わってくれたら」と平塚さん。いつでも音声ガイド付きで見られる映画館を建てるのが夢だそうです。

バリアフリー上映の対象は邦画がほとんどで、障害者が登場する作品に偏ってしまいがちです。また、音声ガイドは費用がかさむため、大手の映画館で実施されることは少なく、住友商事が社会貢献事業として、系列の映画館で年数本実施しているのはまれな例です。

日本点字図書館(東京都新宿区)は障害者向けに、音声ガイドを郵送で貸し出し、閲覧に必要な無料ソフトを提供しています。定期的に音声ガイド付き映画の「体験上映会」も開いています。音声ガイド付き映画のDVD、ブルーレイも市販されています。数は少ないですが、「男はつらいよ」シリーズや「ノルウェイの森」などの作品もあります。NPO法人「シネマ・アクセス・パートナーズ」や「メディア・アクセス・サポートセンター」は各サイトで、ガイド付き作品の一覧を掲載しています。

毎日新聞生活報道部

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