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「ゲートキーパー」の役割は

日本の自殺者は98年に3万人を超え、昨年も3万584人(暫定値)に上りました。国は3月の自殺対策強化月間のキャッチフレーズを「あなたもゲートキーパー宣言!」としてPRしました。批判を受けて引っこめられた「GKB47宣言」の騒動はともかく、ゲートキーパーの役割と課題を探りました。

東京都足立区こころといのち支援担当課長は、つらい体験を持っています。00年暮れ、保健師として以前に健康相談にのった50代の男性が「大変世話になったのでお礼が言いたい」と訪ねてきました。いつも作業着姿だった男性が、その日はスーツにネクタイ姿でした。違和感はありましたが、「ご丁寧にありがとう」だけで済ませてしまいました。翌朝、男性は帰らぬ人に。課長は「せっかくだから相談室で話をしましょうと、なぜ言わなかったか」と悔やんでいます。

不安・・・ストレス・・・を抱えている人のイメージ(イラスト)英語で「門番」を意味する「ゲートキーパー」。内閣府自殺対策推進室によると、悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人を指します。世界保健機関(WHO)をはじめ、自殺対策分野で広く使われる用語です。医師や弁護士、民生委員らだけでなく、強化月間で政府は「全員参加」を掲げ、一般市民にも行動を呼びかけました。

足立区は06年の自殺者が東京23区で最悪の161人となり、08年から自殺対策事業を進めました。「ゲートキーパー養成研修」を始め、全職員の受講を目指しています。雇用や年金、健康など複数の問題を抱えた区民の情報を、各窓口で共有する「つなぐシート」も導入したところ、昨年の自殺者は、前年比約22%減(東京都全体では5%増)となりました。支援担当課長は「自殺者の7割以上が何らかの相談機関を訪れていたとされ、サインが見落とされている。『まさか』でなく、みんなが『もしや』と心がければ、自殺は防げるはず」と話しています。

福井県坂井市の景勝地「東尋坊」で自殺防止に取り組む元警察官、茂(しげ)幸雄さんは「悩みを聞くだけでなく、再出発までしっかり寄り添い、具体的に対応して支え続けることが大切」と強調しています。

茂さんは、地元有志でつくる自殺防止のNPO法人「心に響く文集・編集局」の代表です。東尋坊では毎年20人前後が自ら命を絶ち、会では毎日3人態勢で巡回しています。04年の会発足以来、364人の自殺を食い止めてきました。

ハートマーク!(イラスト)昨年11月の夕暮れ、断崖にたたずむ男性(60)がいました。沈んだ様子が気になり声をかけると、男性は「死ぬために来た」と答えました。妻に先立たれ、週2回のパートをやっと見つけたが、仕事中に足を負傷して働けなくなったと言います。補償はなく、解約した生命保険も底を突いてしまいました。生活保護を申し込んだものの、なかなか認定されず、「もう生きていけなくなった」と訴えました。

男性は、同会の「シェルター」に保護されました。茂代表が市役所に同行すると、すぐに生活保護が認められ、男性は生活を立て直すことができました。シェルターは企業の元社員寮を活用し6室あります。賃貸料全額を国が補助し、食費や生活費を会が負担しています。保護された人は約1カ月滞在し助けを借りながら職探しや通院をし、再スタートを切ります。

「病院で薬漬けになった人、上司に相談したが退職を勧められた人、生活保護を門前払いされた人。みんな、ゲートキーパーになるべき人に期待を裏切られ、東尋坊にやって来る」と茂さんは話しています。

NPO法人「自殺対策支援センター・ライフリンク」の清水康之代表は「あなたもゲートキーパーに、というほど簡単ではない」と指摘しています。「自殺は例えば、『失業→生活苦→多重債務→うつ病』のように幾つかの要因が重なり合って起きる。『気付こう』と口で言うのはたやすいが、より重要なのは、気付いた後に頼ることができる相談窓口や専門家の存在。いまはそれがないから『気付きたくても気付けない』。国は、せめて都道府県に一つずつシェルターを作るべきだ」と力を込めています。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2012年4月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。