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パワーハラスメントとは

性的な嫌がらせ(セクシュアルハラスメント=セクハラ)と異なり、判断が難しく、防止のための対策が十分とはいえない職場のパワーハラスメント(パワハラ)。厚生労働省の作業部会は1月末、職場のパワハラについての報告書をまとめ、政府として初めてパワハラの定義を打ち出しました。全国で急増しているパワハラの防止対策の一歩になるか、注目されています。

厚労省は、職場のいじめや嫌がらせの対策を検討する有識者会議を昨年7月に設置しました。その作業部会が今年1月、「職場のパワハラ」について、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、職場環境を悪化させる行為」と初めて定義しました。

また、パワハラにあたる行為を明確にするため、(1)暴行、傷害(身体的な攻撃)(2)脅迫、暴言(精神的な攻撃)(3)隔離、無視(人間関係からの切り離し)(4)過大な要求(5)過小な要求(6)私的なことに過度に立ち入る個の侵害――の六つに類型しました。(4)、(5)、(6)については、業界や企業の文化で業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でないとして、各職場で認識をそろえる取り組みを行うよう促しています。

「俺の言っている意味わかる?」上司に怒られている様子(イラスト)

一般的に「過大な要求」は、新人にノルマを課したりすること、「過小な要求」は技術者にトイレの掃除を課したりすること、「個の侵害」は、休日に用もなく、連絡したりすることを指すとされています。

厚労省がこうした職場のパワハラ対策に乗り出したのは、パワハラが全国的に深刻さを増しているためです。

全国の労働局に寄せられた職場のいじめや嫌がらせに関する相談は年々増加しています。10年度には前年度比10.2%増の約3万9400件に上りました。統計をとり始めた02年度から比較すると6倍に急拡大しています。昨年末には、熊本市の係長が部下に100万円以上の飲食代を支払わせるなどのパワハラ行為を繰り返し、部下を病気休業に追い込んだとして、市が係長らを懲戒処分とするなど、各地でさまざまな問題が相次いでいます。

パワハラに関するセミナーを開いている民間企業「クオレ・シー・キューブ」(東京都新宿区)が一昨年、全国の企業175社に実施したアンケート調査では、過去5年でパワハラの問題があったと答えた企業のうち、84%が「被害者にメンタルの問題が生じた」、60%が「職場が混乱した」と回答、パワハラが職場に及ぼす影響も大きくなっています。

職場のパワハラが深刻化している背景には、「パワハラの定義がないため、適切な対応をとりにくいからだ」との指摘がこれまで少なくありませんでした。

パワハラ防止のための研修を企画している財団法人「21世紀職業財団」(東京都文京区)には、企業の人事労務担当者から「どこまでが『指導』で、どこからが『パワハラ』に当たるのか、教えてほしい」という質問が多く寄せられています。財団は中小企業などから委託され、各企業の社員向け相談窓口も開いていますが、「上司に悪口を言われた。これはパワハラではないか」などの相談も多かったようです。

セクハラについては、男女雇用機会均等法で「性的な言動で就業の環境を害すること」などと定義されています。そのうえで同法は、企業に対し防止の取り組みを行うよう義務づけています。各企業ではセクハラ対策が実施され、社員のセクハラ防止意識も比較的高いといえます。

これに対し、パワハラには確立された定義がなく、各企業では十分な対策が取られているとはいえない状況が続いてきました。財団では独自の基準を作り、企業や相談者にアドバイスしてきましたが、研修の講師を務める担当者は「同じ暴言であっても、コミュニケーションの延長線上にあるかないかで、パワハラになることもあれば、ならないこともある。簡単に判断はできない」と話しています。

そんな中でようやく動き出した国によるパワハラ対策。クオレ・シー・キューブの岡田康子代表は「政府によるパワハラの定義付けで、企業のパワハラ防止の取り組みが後押しされるだろう」と評価しています。

パワハラ? 指導? 悩む上司の様子(イラスト)

クオレの175社に対する調査では、パワハラに関する何らかの相談窓口を持っている企業は全体の82%に上りました。一方、就業規則などで「指導」と「パワハラ」との違いを明確化している企業は28%にとどまりました。職場でパワハラ問題が生じても、明確な物差しを持っていないため、関係者の処分などもできず、問題がうやむやになってしまうケースが少なくなかったようです。

岡田代表は「パワハラの被害者が休職することによる戦力の低下や、企業のイメージダウンを避けるため、パワハラを防ごうという企業の意識は決して低くない。ただ、どのように取り組めばよいのか悩んでいるのが現状」と話しています。政府による定義が示されたことで、各企業で判断があいまいだった「指導」と「パワハラ」の違いを明確化する作業に弾みがつくと期待されています。

岡田代表は「パワハラの取り組みは大企業に比べ、中小企業で遅れている。たとえ相談窓口を作っても、誰が相談したのかすぐに分かってしまい、なかなか活用されないケースも少なくない。今回の定義を一つのきっかけとして、人事労務担当だけでなく、組織のトップが率先して『職場からパワハラをなくす』というメッセージを発信すべきだ」と強調しています。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2012年4月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。