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農薬残留基準値 なぜ緩和 クロチアニジン、ミツバチ大量死の一因か

ミツバチの大量死の一因とされる特定の農薬を巡り、野菜などの残留基準値と、人体への健康影響について研究者や環境NGOを含めて議論が起きています。厚生労働省がホウレンソウなどの残留基準値を緩和する方針を示しているためです。そもそも基準値はどのように決まり、健康にはどう関係するのでしょうか。

この農薬は「ネオニコチノイド系」=ことば=と呼ばれる農薬の一種で「クロチアニジン」。環境NGOなどがミツバチ大量死との関連を指摘しています。

●使用禁止が40ppmへ

厚労省が新たに基準値を設けようとしているのはホウレンソウやミツバなど約20品目。クロチアニジンの作物ごとの基準値は、既に国際基準などに合わせて、ホウレンソウやミツバを含む約160品目に設定されています。しかし、農薬メーカーから新たな使用申請が出た段階で見直し、新しい基準値が設定される仕組みとなっています。

ホウレンソウとミツバチ(イラスト)例えば、今回注目のホウレンソウの場合、これまで日本国内ではクロチアニジンの使用は農薬取締法で禁止されてきました。しかし、メーカーの住友化学がホウレンソウへの使用を申請したため、改めて正式な基準値が検討されることになり、現行の3ppm(ppmは100万分の1の単位)から、40ppmに大幅に緩和される案が示されました。

なぜ、40ppmなのか。同社が自社のホウレンソウ畑でクロチアニジンの散布実験をした結果、1日後に最大で27ppm残留することが分かったといいます。厚労省はこの結果を受け、より幅のある40ppmを設定しました。

●厚労省「許容量内」

この40ppmの基準値が人間の健康にどう影響するかを知るうえで重要な考えが「1日摂取許容量」(ADI)=ことば=です。クロチアニジンのADIは体重1キロ当たり1日0.097ミリグラムとなっています。国民の平均体重である約53キロの大人の場合、食品から取る量が1日約5.1ミリグラム以下、子供(平均体重約16キロ)の場合、1日約1.5ミリグラム以下までなら、毎日摂取しても健康影響がないことになります。

厚労省の試算によると、40ppmのホウレンソウだけでなく、約160品目に基準値いっぱいのクロチアニジンが残留していると仮定して、それら全ての平均摂取量を食べた場合でも、大人、子供とも1日摂取許容量を下回るといいます。

●健康影響を否定

厚労省は、現実に人が各種食品から摂取しているクロチアニジンの量も調査しました。2010年度に米、パン、野菜、菓子類、豆類など14食品群の市販食品を分析したところ、1人当たりの1日摂取量は0.00233ミリグラムになり、1日摂取許容量の約2000分の1でした。

この結果から、厚労省基準審査課は「基準値いっぱいのクロチアニジンが残留していると仮定した最悪のケースでも、また実際に食品から摂取しているケースでも、許容量以下になっている」とし、今回の基準値の緩和で人体への健康影響は考えられないと話します。

ただし、ミツバチは別です。葉や花の表面に高濃度のクロチアニジンが残留している場合、そこにミツバチが来て、農薬を吸えば悪影響の恐れがあります。農林水産省は「花のないホウレンソウにミツバチは来ないが、できるだけミツバチに影響しないよう散布する工夫は必要だ」と話します。

クロチアニジンとミツバチ(イラスト)●環境NGOは懸念

クロチアニジンの基準値などを審議する厚労省薬事・食品衛生審議会委員の1人は「基準値の導き方自体は科学的に妥当だと思う」とし、基準値は健康影響の観点から論じる必要があると話します。

これに対し、国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」など市民団体からは基準値の引き下げを求める声が強く、「子供が40ppmのホウレンソウをたくさん食べたら1日摂取許容量を超えるのでは」という懸念も出ています。

しかし、農水省や厚労省は「現実に流通するホウレンソウに高い濃度のクロチアニジンが残留することは考えられない」としています。

こうした問題について農薬の毒性問題に詳しい専門家は「作物の基準値は、農薬が適正に使われたかどうかの管理基準の目安でもあり、基準値の高低と健康影響は直接関係しない。大量に摂取した場合の急性毒性は1日摂取許容量とは別に考える必要がある」としています。

◇クロチアニジンの主な残留基準値

  現行値 国際値 新案
ホウレンソウ 3 2 40
ミツバ 0.02 なし 20
コマツナ 1 2 10
小麦 0.02 0.02 0.02
ニンジン 0.02 なし 0.05
大豆 0.1 0.02 0.1
牛肉 0.02 0.02 0.02
※単位はppm。農薬の使用がない食品は 0.02など一律基準になる場合が一般的

【ことば】

◇ネオニコチノイド系農薬
殺虫剤の一種。生物への有害性の高い有機リン系農薬に代わって1990年代に登場。たばこのニコチンに似ていることから名がつきました。昆虫の神経系の働きを阻害して殺します。ミツバチの大量死の一因とされることから、欧州連合(EU)は昨年12月から、クロチアニジンなど一部のネオニコチノイド系農薬の暫定的な使用禁止を決めました。

◇1日摂取許容量(ADI)
毎日、一生食べ続けても健康に影響がない量で、体重1キロ当たり1日の量で表します。通常は、動物実験で悪影響のなかった量を、100倍にした安全係数で割った数値になります。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2014年4月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。