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広がらない「時給アップ」

景気回復の流れに乗って売り上げ増を支える労働力を確保しようと、人手不足に悩む業界を中心に、アルバイト・パートの時給を上げる動きが出てきました。だが時給アップの恩恵を受ける人々はごく一部で、多くのアルバイト・パート社員の暮らしは、景気の行方とは対照的に、改善の兆しが見られぬままになっています。打つ手はあるのでしょうか。

埼玉県川口市内のマンガ喫茶で2年前からアルバイトする男性(34)。時給は入社時の900円から全く上がっていません。それどころか昨年末には「時給は上がると思うな。有給休暇を使ったら、今よりも減らす」と、上司から強い口調で会社の方針を伝えられました。

時給の・・・アップを! アルバイトの様子(イラスト)男性が勤務している深夜帯は、神経をすり減らすことが多いといいます。店内には夜間宿泊可能な個室があり、騒音などが原因で利用客同士のトラブルがしばしば起きるからです。「体力的にも心理的にも負担が重い深夜バイトなのに時給900円では割が合わない。生活していけるだけの給料をきちんともらいたい」と訴えています。

このところ、シフトの変更もあり、月収はむしろ減っています。恋人と同市内にある家賃6万6000円のアパート(2DK)で暮らしますが、今の生活を続けるのが難しくなっています。「アルバイトで生計を立てる友人との会話からも『時給がアップした』という声は聞こえてこない。まるで別世界の話」と肩を落としています。

●「フード系」は上昇

人材サービス業のリクルートジョブズが毎月公表している「3大都市圏のアルバイト・パート募集時平均時給調査」で、1年ほど前から、主に外食部門を指す「フード系」で時給が上昇していることが裏付けられました。外食業界は元々時給が低い上、少人数での過重労働が常態化してきました。このためアルバイトの離職が相次ぎ、一時閉鎖に追い込まれる店舗も出ています。深刻化する「離職ドミノ」を食い止めながら、新規採用する切り札として、各社が競って時給を引き上げているのが実情です。

牛丼チェーン大手「松屋フーズ」の2012年度決算と13年度決算を比較すると、売上高に占める人件費の比率は32.8%から33.4%に増えました。同社は「アルバイト・パートの時給引き上げが人件費増の主要因」(広報)と認めています。

なんとかしてほしい・・・アルバイト店員の様子(イラスト)だが、こうした時給上昇の他業種への波及は限定的です。リクルートジョブズの同じ調査によると、フード系や事務系は上昇基調だが、総計は実のところ横ばい気味。時給アップの先導役とされるフード系ですら「応募者数を増やすため新規採用者の時給だけを一時的に上げて、採用から数カ月後には下げるといった事例が増えている」と求人広告会社の担当者は明かしてくれました。

業績好調な一部大企業が正社員のベースアップに踏み切るのとは裏腹に、多くの企業はアルバイトの待遇改善に消極的姿勢を変えていません。首都圏青年ユニオンの関係者は「『時給アップを求めたとたん、勤務日を大幅に減らされるなどの嫌がらせを受けた』といった相談事例が最近目立つ」と憤っています。

●突然解雇の不安も

首都圏青年ユニオンは「ファストフード業界の時給を1500円に」と主張していますが、実現へのハードルは非常に高いのが実情です。それどころか、景気動向次第で時給が下がったり、突然解雇されたりすることへの不安がアルバイト・パート社員を覆っています。

総務省の労働力調査によると、今年1〜3月期の全雇用者に占める非正規雇用者の比率は37.9%で、四半期ごとの集計を開始(02年1〜3月期)して以来、過去最高を記録しました。正社員になれないアルバイトやパートが、景気に左右されずに安心して暮らせる賃金水準の確保が急務です。

自ら交渉して賃金アップすることはできないのだろうか。若者らの労働問題に取り組むNPO法人POSSE(東京都世田谷区)の関係者は「時給の引き上げは契約内容の変更に当たるので、未払い残業代の請求よりハードルが高い。NPOや個人加盟型労組など専門知識を持つ団体に相談しながら交渉するのが望ましい」と話しています。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2014年7月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。