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「残業代ゼロ」

政府の「成長戦略」に盛り込まれた、労働時間に関係なく、成果に対して賃金が支払われる新たな労働時間制度「ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)」の導入を巡り、適用対象者の範囲などを決める協議が、厚生労働省の労働政策審議会で進んでいます。新制度が始まると対象者の収入はどうなるのでしょうか、会社員としての働き方はどう変わるのでしょうか。

労働基準法は「1日8時間、週40時間」を法定労働時間と定め、これを超えて働いた場合、原則、割増賃金(残業代)を支払うよう会社に義務付けています。

一日八時間、週四十時間 サラリーマンのイメージ(イラスト)新たな制度は、一部の労働者を、こうした労働時間規制の適用除外とするため「残業」の概念はなくなります。政府案は対象者を「年収1000万円以上」「高度な専門職」の2条件を満たす非管理職とし、対象の職種は金融ディーラーやアナリスト、経営コンサルタント、メーカーの研究職などが想定されています。

年収1000万円を超える人は、会社員の4%程度。大手都市銀行系のコンサルティング会社の研究員は「収入条件と合わせると、対象者は、有業者(普段から職業に就いて収入を得ている人)の1%前後にとどまりそう」と話します。

大手証券会社でアナリストとして働くAさん(47)は、管理職になる前から1000万円を超える報酬をもらっていた。政府が想定する対象層に合致します。しかし、Aさんは「そうした会社員がいる業界はかなり限定的。新制度は大きな変化をもたらさない」とみています。

●対象拡大の可能性

ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は、第1次安倍内閣時の2007年にも「年収900万円以上の総合職」を対象に議論されました。だが、労組や与野党からも「残業代ゼロ法案」などと批判され、断念に追い込まれました。その失敗を繰り返さないよう、今回は対象を絞り込んだ格好です。

お先に〜 個人主義労働者のイメージ(イラスト)それでも、いったん新制度が導入されれば、中長期的にみると対象が拡大する可能性は否定できません。「推進側」の経済界からは「幅広い人が対象になるよう今後も求めていく」(経団連)と、早くも対象者の拡大をもくろむ声が聞こえてます。

ある社会保険労務士は「日本では、大企業のサラリーマンを中心に残業代を稼いで生活費を確保してきた側面がある」と話します。残業代がなくなれば、生活設計に大きな影響が出るケースが少なくないとみられます。

さらに新制度は、建築士やデザイナーといった専門職などに導入済みの「裁量労働制」と異なり、深夜・休日などに超過勤務しても手当を支払う必要がありません。成果が出たと会社が認めなければ収入が減る可能性が高まります。

このため、労働者側の反発は根強いものがあります。労働問題に詳しい弁護士は「労働者派遣法と同じく、『(新制度を)小さく産んで大きく育てる』のは必定だ」と憤っています。

東京都内で5月末に開かれた労働者向けのシンポジウムでも、ある弁護士は「労働者は従来以上に成果を出そうと躍起になり、勤務時間がより長くなる。過労死が急増する恐れもある」と指摘しました。労働問題に詳しいNPO法人の代表も「ホワイトカラー・エグゼンプションが導入されればむちゃなノルマが合法化され、それを課すブラック企業も合法化される」などと発言、経済界の動きをけん制しています。

早く帰りたいなぁ チームワーク主義労働者の様子(イラスト)●自分の仕事以外も

そもそも、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入しても、残業が減らない可能性もあります。欧米企業では、採用時点で会社と新入社員が職務記述書を交わし、個々人の仕事の範囲を明示するのが一般的ですが、日本はそうした慣行がありません。社労士は「日本企業はチームワーク重視。周囲をどう助けたかも評価されるため、自分の仕事が終わっても帰宅できない」と語ります。

ごく普通の会社員が「働き過ぎ」に陥らず、安定した暮らしを享受することは可能なのでしょうか。雇用コンサルタントは「管理職になれなかった中高年社員の昇給をやめれば、継続雇用しても企業の負担は軽い。年収が抑えられれば転職も容易になるので、熟練度の高いベテランを社会全体で有効活用する道も広がる」と提言します。

世帯主の収入が減っても生計が維持できるよう、保育所の充実などで共働きしやすい社会を整備する必要もありそうです。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2014年11月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。