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トイレ紙 なぜ今、家庭備蓄

経済産業省が先月から家庭にトイレットペーパーの備蓄を呼びかけています。生産の4割が静岡県に集中しているため、東海地震が発生すれば供給不足の恐れがあるといいます。もともと石油危機以来、災害時などに品不足になりやすい「パニック商品」だが、なぜ今、家庭備蓄なのでしょうか。背景を探りました。

どうしてないの? スーパーでトイレットペーパーが売り切れている様子(イラスト)●繰り返すパニック

「TPパニック」。災害や経済的な混乱のたびに買いだめなどでトイレットペーパー(TP)が店頭から消える現象を紙業関係者はこう呼びます。

ことの起こりは1973年の第1次石油危機で起きたトイレットペーパー騒動。家庭紙が値上がりするなか通産省(現経産省)が紙の節約を呼びかけたのを発端に関西地区のスーパーに買い求める客が多数押しかけました。客の下敷きになり大けがをする人も出るなど騒ぎは広がり、全国に飛び火しました。

2011年の東日本大震災では被災地から離れた首都圏でもパニックが起きました。東京大総合防災情報研究センターの関係者が直後に行った調査によると、東北以外(首都圏など10都道府県)でトイレットペーパーを購入した人の6割は「モノ不足になっているのを知ったから」と回答しました。不要不急であっても市場の不足感が引き金に買いだめが進み、さらに不足を生む連鎖の構図です。今年4月の消費税率アップ前にも多くのスーパーの店頭から商品が消えました。

●買いだめ気質影響

TPパニックはなぜ繰り返されるのでしょうか。製紙業者などが中心となって作ったNPO法人・緊急災害備蓄推進協議会は11年の品不足には三つの要因があったと分析します。

まず物流の混乱。東北などの製油所が被災したことでガソリン不足になると予想した車ユーザーがガソリン確保に乗り出したことでトラックが一時的に燃料不足となり、生産地から消費地への供給が難しくなりました。

次に流通在庫の問題です。スーパーや卸業者はコスト削減から流通在庫を圧縮しているため、売れ行きがよいと一時的な「品切れ」が出やすくなっています。空のショーケースの映像はテレビやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで拡散しました。

そして最後は「買いだめに走る国民的気質の存在」(同協議会関係者)だが「有識者を含め議論したが解明に至らなかった」といいます。生活必需品▽比較的安価▽経年劣化が少ない▽平時にはふんだんにある――などの特性が背景にあるとみられています。

トイレットペーパー他 家庭備蓄品のイメージ(イラスト)●東海地震で不足か

トイレットペーパーは年間100万トンが生産され、その4割は静岡県に集中します。輸入は僅かで国産品が国内消費されている構図です。これまでのTPパニックでは生産供給力は十分あり、品不足は流通の消費者に近い段階で起きた問題でした。しかし「いつ発生してもおかしくない」とされる東海地震時には生産供給が揺らぐ可能性が出てきました。

業界団体の日本家庭紙工業会は12年11月、東海地震を想定した供給継続計画をまとめました。地震発生時は(1)輸入増(2)トイレに流せるティッシュペーパーの生産(3)キッチンペーパー製造をトイレットペーパー製造へ切り替え増産――などで対応しますが、それでも1カ月程度は全国で供給不足が続くという予想です。

これを受け、経産省は9月、家庭での1カ月分備蓄呼びかけを始めました。4人家族の場合、15ロールが目安といいます。紙業服飾品課の担当者は「過去のパニックの経緯はともかく、生産供給の混乱が予想されるため必要な措置だ」と強調します。

TPパニックが日本固有の現象であることや、国が特定商品の備蓄を呼びかけるのは異例です。このため、海外メディアのウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)、米通信社ブルームバーグやAP通信なども関心を持って伝えました。

●国の防災計画にも

家庭備蓄の呼びかけには、もう一つの事情があります。全国の自治体は災害時の人的・物的支援について企業・団体と災害時応援協定を結んでいます。トイレットペーパーについても製紙業者などに供給を求めています。しかし約10年前から「メーカーの間で協定の実効性を疑問視する声がわき上がってきた」(家庭紙工業会)。有事に備え一定在庫を確保するのではメーカーに一方的にコスト負担を押しつけることになるためです。

そこで石油などと同様の「国家備蓄」を働きかけたが実現には至らず、家庭備蓄へと方向転換したといいます。11年に修正された国の防災基本計画では、住民が備蓄すべき物資として食料や飲料水などと並び、初めて「トイレットペーパー」の文字が入り「一定の成果はあった」(緊急災害備蓄推進協議会)と評価しています。

備蓄推進協議会は、備蓄用トイレットペーパーも開発しました。芯なし1ロールの長さは150メートルと通常の2.5倍あり、省スペースになります。各地で進める備蓄呼びかけ活動に利用していくといいます。

毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2014年11月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。