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味覚教育で五感をみがきましょう


フランス生まれの新しい子どものための味覚教育が小学校などの教育現場に広がり始めています。五感をフル活用して、さまざまな味覚を体験しながら、子どもの主体性や判断力、表現力を豊かにする教育で、食育の新たな試みとしても注目されています。どのような教育なのでしょう。

実際に行われた味覚教育のイメージ(イラスト)●味わいを言葉に

今年7月半ば、東京都文京区内の公立小学校の家庭科教室で、子どもたちの五感や表現力を豊かにする全8コースの課外授業が開かれました。3〜5年の女児4人が囲む机には三つのコップが並べられています。「白い液体」「どろっとした白い液体」「ゼリーのような白いもの」の三つです。

「三つの中身は何でしょうか。よく味わって、感じたことを言葉で書きましょう」。先生役の講師が4人に問いかけました。

4人は目を輝かせながら、コップの中をじっと見たり、コップを振ったり、舌でじっくりと味わったりする。「これは絶対に普通の牛乳だ」「どろっとした液体は豆乳だよ」「このとろみはどうやって作ったのかな」「ゼリー状に固めたものはすっぱい味がする」――。思い思いに五感で感じた表現を言葉で書いていきます。

隣の教室には子どもたちの親が控え、同様に三つのコップの中身を味わい、それぞれ感じたことを記入していました。

終わったあと、講師が「三つはどれも同じ牛乳です。とろみの原料はかたくり粉です」と説明すると、「えー、同じ牛乳なの」「かたくり粉を加えただけでおいしく感じたのは不思議」などの声が上がりました。

他にも、同じせんべいを硬いまま食べたり、すりこぎ棒で粉にして味わったりすることも行われました。同じ食べ物でも固めたものと、粉状のものでは味が違うことを知ってもらうためです。

表現力を磨くために、袋の中に隠した布やアルミホイルなどに手で触ってみました。「すべすべ」「ごわごわ」「ざらざら」「つるつる」などの言葉で表現されました。

●始まりはフランス

こうした五感や表現力を豊かにする味覚教育は、味覚研究者として世界的に知られるフランスのジャック・ピュイゼ氏が1974年に始めました。フランスでは学校の教師などを対象にした指導者養成研修があり、小学校の授業で実践されているそうです。自身の経験を言語化し、他人の経験との違いを受け入れることを学ぶのが特色です。

このピュイゼ氏の教育理論を知った内閣府食品安全委員会のある委員が3年前、ピュイゼ氏の自宅を訪ね、3日間、話をじっくりと聞いたそうです。その結果、「日本でも十分に教える価値がある。味覚の体験だけでなく、ものごとに主体的に向き合う力も身につく」と考えました。

仲間の小学校教諭とともに家庭科などの教科で取り組むことが可能だと判断し、任意団体「子どものための味覚教育研究会」(IDGE)を設立して、日本での普及に乗り出しています。文京区の小学校の課外授業は同会の取り組みの一つです。

一昨年と昨年にはピュイゼ氏から直接学ぶため、日本の学校教師を募りフランスで5日間の現地研修を開きました。これまでに大学教員や小中学校の栄養教諭ら25人がフランスでの研修に参加し、それぞれの教育現場で実践を始めています。

味覚教室で学んだことを家庭の食卓で実践する子供(イラスト)●日本は親子参加で

日本での導入にあたっては、「親子参加が基本」という新しい方式も取り入れました。五感で感じるものに正解はありません。子どもが自由に表現したことを、親が否定するようでは子どもの表現力は伸びません。親子方式なら、親子で多様な表現を認め合う土壌ができるのです。

8月初めには宇都宮大(栃木県)で親子約20組を対象に味覚教育ワークショップが開かれました。「親子でいろいろな感じ方を学び合えるのがすばらしく、家庭の食卓風景も豊かになります」との声が挙がりました。

文京区の小学校のように全8回も行うカリキュラムは全国でも珍しいそうです。味覚体験は人によってみな異なり、その異なる感覚を共有するのもこの教育のおもしろさの一つです。自分で考え、自分で選択し、自分自身の力で生きていく力が身につくのでは、と期待されています。


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2015年9月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。