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日本酒がブームです


日本酒がブームだといいます。「クールジャパン」の一環で、和食と共にその魅力を海外に伝える動きもあり、輸出量はこの10年で倍増しました。日本酒全体の出荷量は依然減少傾向ですが、「純米酒」や「純米吟醸酒」の出荷量は顕著に伸びています。ブームの内実は、米と米こうじによる本来の酒造りへの回帰と言えそうです。

日本酒は海外でも人気!(イラスト)福岡市から30キロほど南東の大刀洗(たちあらい)町。のどかに広がる平野を横切る小石原川沿いに、「みいの寿酒造」があります。1922(大正11)年創業、日本酒「三井の寿」で名高い蔵元です。現在は、専務で4代目の井上宰継さん(45)が蔵を仕切ります。「酒造りは科学とセンスと情熱」と語る井上さんは、食品関係の外資系企業に勤めた後、18年前に家業に就きました。

井上さんのように、蔵元が実際の酒造りも行う「蔵元杜氏(とうじ)」が近年、存在感を増しています。「蔵元杜氏は、とことん質を極めようと冒険ができます」と井上さんは胸を張ります。自ら経営者でもあるため、設備投資も惜しみません。酒造りで最も重要な温度管理も、今はモニターを使って的確にできるといいます。質を高めるための条件がそろっているのです。

●「純米酒」にかじ

井上さんが造る酒は現在、9割以上が「純米酒」です。日本酒の原料は本来、米と米こうじでしたが、戦時中の米不足により、アルコール(トウキビなどの蒸留酒)の添加が始まりました。みいの寿酒造も、かつては大きなタンクでアルコール添加の普通酒を造りました。

しかし30年ほど前、現社長である父の茂康さんがフランス・ボルドーのワイナリーを視察して刺激を受け、「地元産の原料で地元に根ざしたブランドを」と奮起。純米酒中心にかじを切ったといいます。

「昔は質の低い酒に大量にアルコールを加えて飲めるようにしました。でも、それはまがいものです」。現在、国内で流通する純米酒は全体の3割。醸造用アルコールを少量添加すればすっきりした味わいになり品質も安定しますが、「かさ増しのために添加する場合が多い」と井上さんは嘆きます。それでも技術やハード面の進歩で、日本酒の質はここ数年で確実に上がっているといいます。

●ブランド確立意欲

質の高い酒造りは各地で進んでいます。一大産地、兵庫の灘で1751(宝暦元)年に創業した神戸酒心館は、ノーベル賞の晩さん会で供された「福寿」で知られます。

同社は13代目が社長に就任した10年前、酒造りを担う蔵人を全て社員に登用。会社としてデータを共有しつつ技術を高めることで、2008年以降、生産量が2倍以上に増えたといいます。現在、純米酒は全体の6割で、「特定名称酒」主体の酒造りを進めています。同社の営業推進部長は「大手メーカーと同じ土俵では戦えない。酒米に応じて味を変えるなど、多様化と個性化を図ってた」と話します。規模が小さく販売先にも目が届くので、保存が難しい繊細な酒も出荷できるといいます。

韓国やヨーロッパ、米国への輸出も進みますが、今後は「これ以上、本数を増やすより、ブランドイメージを確立させたい」とのことです。

1日1合の純米酒を!(イラスト)●飲んで農業活性化

質を追求する中小の造り手が増える一方、「今、売り場に並ぶ日本酒は玉石混交。初心者は最初の選択を誤ると二度と手を出さなくなる」と、酒食ジャーナリストの山本洋子さんは危惧します。「蒸留酒の焼酎と違い、日本酒は味の幅が広い。添加物によっても質が損なわれがちです」。山本さんが勧めるのも、味に豊かなふくらみがある純米酒です。

セミナーなどでは必ず「1日1合の純米酒を」と訴えます。計算によれば、その量を成人1億人が1年飲めば、ちょうど減反で休む田の面積分の酒米が必要になります。純米酒で農業を活性化できるというのです。「今、大人気の『獺祭(だっさい)』は全て『山田錦』という酒米を使った純米大吟醸です」。獺祭のようなスター級の銘柄が増えたことも、日本酒ブームを後押しします。

東北にももちろん「十四代」(山形県)、「新政」(秋田県)など蔵元杜氏による人気銘柄は多くあります。秋田県酒造協同組合によれば、「東北の酒を飲もう」という震災の復興支援も、日本酒ブームのひとつのきっかけだったといいます。脚光を浴びたことで酒造りの技術も進みました。秋田の酒は地元と東京への出荷が主でしたが、最近は大阪で初の試飲会を開くなど、西日本への販路拡大に努めています。

みいの寿酒造の井上さんは、酒造りが休みの4月から10月初めまでは、イベントなどで「4日に1回は飛行機で移動する」といいます。他の造り手との仲間意識も強く、情報交換も盛んです。「みんなで日本酒の質を上げたい」。日本酒の世界は今、転換期にあるといえそうです。


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2016年8月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。