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魚離れにストップを


食卓の魚離れが止まりません。原因は価格の高さや「魚より肉」という好みの変化、また調理のしづらさなどが考えられます。栄養価が高く、和食文化にも欠かせない魚。再び食卓の主役に戻る日は来るのでしょうか。

●調理法、授業で伝授魚料理が苦手な女の子(イラスト)

「生き物が食べ物に変わる。今日はその過程をお見せします」。東京都江東区の深川第三中学で開かれた「お魚クッキング教室」。出前授業を提供するのは日本おさかなマイスター協会で、講師を務めたのは料理研究家の田口成子さん。2年生約40人が、築地から届いたばかりの様似(北海道)産と久慈(岩手県)産の大ぶりのサケ2匹を囲みました。

サケの種類や天然と養殖の違いを解説した後、田口さんが生徒の手も借りてサケをさばきました。内臓をひとつ取り出すごとに、生徒から驚きの声が上がります。骨も筋子もていねいに処理した後、班ごとに「サケのちゃんちゃん焼き」を作りました。授業後のアンケートでは、「解体を間近で見て、命の大切さや魚のありがたみを感じた」「魚はあまり好きではなかったが、おいしく、もっと食べようと思った」などと感想が寄せられました。

「魚料理は臭いが出るし、下処理や後始末が大変」。魚離れの原因をそう推測する田口さんは、いま最も力を入れたいのが魚料理の普及だそうです。「魚が『外で食べるもの』になってきたのが心配。日本の魚文化を絶やしてはいけない」

●消費量、10年で激減

魚離れはどの程度進んでいるのでしょうか。

農林水産省の「食料需給表」によれば、「食用魚介類の1人当たり年間消費量」は、2001年には40.2キロでしたが、12年は28.4キロにまで減りました。また東京ガス都市生活研究所の「生活定点観測調査」によれば、「焼き魚を作る頻度」で「よく作る」と答えた人が90年は53.3%だったのに対し、14年は29.1%でした。

魚離れは食料自給の問題にも関わります。水産庁は12年、「魚の国のしあわせ」プロジェクトを始め、生産者から小売業者までを巻き込み、消費の拡大を図ってきました。話題を呼んだのは、魚介類の加工品を選んで認定マークを授ける「ファストフィッシュ」。手軽に食べてもらえる商品を毎年選んでおり、今年度は温めるだけで食べられる「ぶりのトマト煮」や、小骨ごとフレークにした「焼き塩さば」などが選ばれています。

プロジェクトが始まって5年、「出口がなかなか見えない」と水産庁の担当者は言います。「若い層は魚の味を知らず、高齢者は価格面で手を出しにくい」

ファストフィッシュと表裏一体の試みとして、全国漁業協同組合連合会も「プライドフィッシュ」というプロジェクトを始めました。加工品ではない「真の魚」のおいしさを広めるべく、家庭での消費に加え、旅で産地を訪れて魚を食べることを促そうというのです。インターネットで各地の特産品やレシピを発信しつつ、産地直送の通販も充実させています。

今晩食べる魚を選ぶ主婦(イラスト)●流通の形変える

業界の外からも、魚離れにあらがう取り組みが始まっています。東京都目黒区を中心に5店舗を構える魚専門店「sakana bacca」(サカナバッカ)はしゃれた外観が目を引きます。経営するのは、「ITを活用した水産流通の新しい構築」を目指す株式会社フーディソン。社長の山本徹さんは「魚は通常、産地から消費者に届くまでに実に多くの仲介業者や市場を経ています」と流通の問題点を指摘します。日を追うごとに鮮度は落ち、結果として家庭の食卓にはおいしい魚が届かない。「高価でおいしくないなら、当然、魚は食卓から消えてしまう」

まずは「売る側の都合」による流通を変えようと考え、生産者と直接、取引することで流通コストを落とし、よりおいしい状態で届けようとしました。それが14年末にオープンさせた「sakana bacca」の1号店です。

産地直送なら、刺し身でおいしく食べられる期日も分かり、客に調理法を提案できます。ただし水産市場から仕入れるこれまでの流通にも安定供給の利点があり、市場も利用しつつ、より理想的な流通の形を探っています。

●宝を生かせ

ある日の「sakana bacca」都立大学店。氷台に大小さまざまな魚が並んでいます。徳島産「ミシマオコゼ」、山口産「イトヨリダイ」、岩手産「真ソイ」、香川産「キジハタ」……全てが産地直送です。基本はとれた翌日に店頭に並び、場所によっては朝、漁港に揚がったものが午後並ぶこともあります。市場から仕入れた切り身パックもそろえています。

近くに住む料理研究家の富樫沙恵子さんは「何しろ鮮度がいい。この店ができてからは築地に行かなくなりました」と言います。

フーディソンの山本社長は「新しい魚屋の形に手応えはあるが、勝負はこれから」と気を引き締めます。さらに「魚の味がデジタルで判断できるような仕組みを作りたい」と将来を見据えています。「日本近海は世界でも恵まれた漁場。この宝を生かさなければ」


毎日新聞生活報道部

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