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駄菓子屋に行こう


日本の駄菓子文化を見直そうという動きが出ています。現在はスーパーやコンビニでも売られていますが、かつて子どもたちは小銭を握りしめ、街の小さな駄菓子屋へと向かったものです。駄菓子との"正しい"付き合い方をもう一度考えてみました。

●おばちゃんの笑顔

駄菓子屋のおばあちゃん(イラスト)東京都江東区の都営地下鉄大島駅から徒歩5分。駄菓子屋「ひよこ」の扉を開くと、色とりどりの包装に包まれた駄菓子がずらりと並んでいます。定番の「うまい棒」「ココアシガレット」から、あまり見かけない商品も盛りだくさん。「いらっしゃい」。店主の前田みき子さんが笑顔で出迎えてくれました。

近くにある小学校の終業時刻に合わせ、午後1,2時ごろから店を開きます。午後6時まで、店は前田さんと子どもたちの「社交場」に。扱う商品は100種類以上。誰かが「まずい」と言った菓子は本当に売れないそうです。最近は、100円分の当たりくじが入った10円の菓子が人気。大人がおつまみとして好む珍味もよく売れます。前田さんは「買ってすぐに食べるのがおいしいみたい。お借りした目の前の駐車場スペースでみんな食べています」と目を細めました。

店を始めて39年。大島中央銀座商店街の建売住宅を買ったことがきっかけでした。8畳ほどの土間を改造し、商品を陳列する棚やケースは知り合いに作ってもらったり、譲り受けたりしたそうです。休みは月1回ほどですが、もうけはほとんどありません。「商売にはならないけれど、子どもたちの笑顔が見られるだけで十分。自分のぼけ防止にもなります」と笑いました。

●親は外で見守り

「こんにちは」。小学生の娘2人が常連客という主婦が2歳の長男と来店しました。「品ぞろえが豊富だし、何より安い。スーパーやコンビニで買うのと違い、おばちゃんとの会話も楽しいですよね」。前田さんと長男の2人だけの世界を店の外から優しく見守っていました。

時代と共に商店街はシャッターを下ろす店が増えましたたが、「ひよこ」は今でも地域のよりどころとなっています。子どもだけでなく、道行く人たちみんなが前田さんとあいさつを交わすのです。進学や就職、結婚などで成長した子どもがあいさつに訪れたり、自身の子どもを連れて遊びに来たりすることも大きな喜びとなっています。

●「社会性学べる場」

「ここは誰もが集まる『街のステーション』。こんな貴重な場所が各地に必要なんです」。案内してくれた「駄菓子屋研究家」の土橋真さんが解説してくれました。これまで全国300軒近くの駄菓子屋を訪れました。「子どもが一番安全でいられる場所は駄菓子屋。『あいさつをしないと入店できない』など店それぞれにルールがある。学校や家庭以外で社会性を学べる場所なんです」 土橋さんは6年前、自分の住む下町を知ろうと平日の昼間に歩きました。ふと視界に入った駄菓子屋の店先で、子どもたちが店主と会話を楽しむ光景に衝撃を受け、各地の店を巡るようになりました。どこを訪ねても、高齢店主が口をそろえるのは「もうけがないが、やめられない」。その理由は「ひよこ」の前田さんのように「通っていた子が大人になって子どもを連れて来てくれた」という喜びで共通していたそうです。その声を広めたいと「駄菓子屋探訪ブログ」というタイトルでネットに思いをつづっています。

土橋さんに駄菓子との付き合い方を聞きました。「正直自分は男親で、どの添加物が体に悪いとかは分からない。食べ過ぎは良くないけれど、子どもの小遣いなら買える量は限られます」と言います。そのうえで「子どもと一緒に行った場合は、お金だけ渡して外で待っていましょう。親が買う物を決めて会計するのであれば、スーパーでもコンビニでも一緒。駄菓子屋だからこそできる店主との会話を楽しんでほしい」とアドバイスしてくれました。

日本文化を楽しむフランスの子供達(イラスト)◇「世界を笑顔にする日本の文化」

駄菓子メーカーや卸業者でつくる「DAGASHIで世界を笑顔にする会」(事務局・岡山県瀬戸内市)は3月12日を「だがしの日」に制定するなどさまざまな活動に取り組んでいます。会長は「日本の精神・文化が凝縮された駄菓子業界を活性化し、"DAGASHI"を世界平和のキーワードにしたい」と夢を語ってくれました。

会は2015年に18社・団体が発起人となり設立されました。きっかけは、前年にフランスで開かれた日本文化の発信イベント。知人の誘いで出店した関係者が、駄菓子が当たる的当てゲームを用意したところ、「珍しい」「おいしい」と現地の子どもたちが大行列を作りました。「1ユーロなのにみんな目の色を変えて。経営効率にとらわれない中小零細企業が工夫をしている駄菓子が絶賛を浴びたのです」と会長は振り返りました。

10〜30円程度で買える子ども向けの菓子を作る国内の駄菓子業界は、大企業中心の欧米の菓子業界とは違って個性が光り、独特の世界観があります。一方、一般の流通システムにほとんど組み込まれておらず、大半が後継者すらいません。会長は「組合もなく、このまま姿を消してしまうかもしれない駄菓子業界を守りたい。この文化を消すわけにはいきません」と力を込めました。

駄菓子は単価が安く、子どもの小遣いの範囲内でたくさんの商品を買うことができます。遠足の菓子代が200円なら、子どもは何時間もかけて最高の200円分をそろえます。駄菓子屋さんは、その時のキラキラした子どもの目を見るのが大好きなのです。ある人は言いました。「駄菓子は日本に残る世界の奇跡。国境を超えてみんなを笑顔にできるのです」


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2017年7月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。