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動作の基本 身につけよう


転んだ時に手がつけない、まっすぐ走れない、うまくしゃがめない――。こうした基本的な動作がつたない子どもが増えています。幼少期に身につけた動作は生涯を通じて運動全般の基本となります。専門家は、遊びの中で動きの基本を身につけることの重要性を訴えています。

公園で携帯ゲームをする子供達(イラスト)●前転で頭打つ子も

「マット運動で前転をする時に首を曲げられず頭を打つ子や、ボール投げで右手と右足が同時に出る子がいます」。非常勤講師として東京都内の公立小中学校で体育を教える男性(35)は、子どもたちの現状をこう説明します。男性によると、サッカーは抜群にうまいが全く泳げないなど極端な例もあるといいます。スポーツ少年団やスクールで特定のスポーツにだけ取り組むことで、幅広い動きを身につけられていないケースもあるのです。

こうした動きの質の低下は、就学前の幼児期から始まっている可能性があります。宇都宮大学の加藤謙一教授(発育発達学)らが2015年に行った調査では、36年前の幼児と比べて走る能力が劣っていることを示唆する結果が出ました。調査は5歳の男児12人と女児14人を対象に25メートル走をビデオカメラで撮影し、タイムや地面に足がついている時間など8項目について分析。1979年に5歳の男児15人、女児13人を対象に行われた同様の調査と比較すると、地面に足がついている時間は平均で男児が0.028秒、女児が0.021秒長い結果が出ました。また、もも上げ角度の比較では男女とも、昔に比べももが上がっていなかったのです。

●体動かす遊び減る鉄棒で遊ぶ子供達(イラスト)

子どもの体力・運動能力低下の主な原因としては、生活環境の変化や外遊びの時間の減少などが挙げられています。スポーツ庁によると、15年度の全国の体育・スポーツ施設数は19万1356カ所で、1985年の29万2117カ所から約10万カ所減りました。

日本小児保健協会が10年に1〜6歳の未就学児約5000人を対象にした調査によると、よく行う遊び(複数回答)は2歳以上の幼児でお絵かきや粘土など75%と00年調査の62%から上昇、ボールや滑り台など運動遊びは59%で横ばい、テレビ・ビデオは26%から51%に倍増し、体を動かす遊びの割合が相対的に減っています。最近は、危険だとして固定遊具の使用やキャッチボールが禁止の公園、休み時間にボール遊びが禁止されている学校もあります。

文部科学省は3〜6歳の未就学児を対象とした「幼児期運動指針」で、遊びや手伝いなどを含め毎日60分以上体を動かすことを推奨しています。日本体育協会は144年度、遊びの中で基本的な動作を身につける工夫を盛り込んだ幼児期向けの小冊子「アクティブ・チャイルド・プログラム」を作成しました。「伝承遊び」として押しくらまんじゅうや鬼ごっこ、かくれんぼなどが紹介されています。協会の担当者は「昔は地域の人たちが教えていたが、今はそういう状況にないのでプログラムとして提供しました」といいます。

毎年行われている「体力・運動能力調査」では、子どもの運動能力は85年前後をピークに低下し、ここ5年ほどは下げ止まりの状態が続いています。例えば小学生の場合、男女とも立ち幅跳びやソフトボール投げといった動きの質が記録に関係するような種目は低下傾向にあるのです。体力テストの結果からは見えない子どもの動きの変化や質に関する調査・研究は少ないのが現状です。

●日常生活に支障も

環境を劇的に改善するのは難しいことを踏まえ、日本学術会議は7月、文科省とスポーツ庁に対し、小学校の体育教科書の作成や体育専門の教員の配置増といった教育制度の整備、動きの質に関する全国的な調査の実施などを提言しました。提言の取りまとめに関わった国立健康・栄養研究所身体活動研究部長の宮地元彦さんは「一つ一つの動作は人間の能力全体の一部に過ぎないけれど、動作全体を一定のレベルに保つことは人間の機能を保つという点で非常に重要です」と言います。

基本的な動作が十分に習得できていないとすぐけがをしたり、スポーツを楽しいと思えず運動嫌いになったりします。そのまま運動をしなくなれば、将来生活習慣病や寝たきり状態になることも懸念されます。スポーツの動作だけでなく、肩が上がらず高いところに物を置いたり取ったりできないなど、日常生活で行われる動作にも影響しかねないと宮地さんは指摘します。

鉄棒やボール投げは本来遊びの中で覚えていくものですが、昔に比べて今の子どもたちは自由に運動する機会が奪われています。加藤教授は「学校では今まで以上に効果的に指導することが必要になってきます。家庭では、余裕があれば休日に外に連れ出して子どもが積極的に動けるような働きかけをしてほしいものです」と話しました。


毎日新聞生活報道部

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