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美術館での会話、OK?


ひそひそ声すら響いてしまう静寂の美術館。ちょっとした異変が起きています。周りに気兼ねなくおしゃべりできる日や、子ども連れ歓迎の日を設ける動きが広がっているのです。美術館は来館者増を期待しますが、静けさを求める来館者と日を分けることに首をかしげる人もいて、鑑賞のあり方に一石を投じています。

静寂の美術館(イラスト)●全国に広がる

「取っ手の部分、何の形かな」「この器、煮物を盛り付けたいわ」。焼き物専門の戸栗美術館(東京都渋谷区)は昨年6月から毎月第4月曜を「フリートークデー」としました。展示替えのたびに夫婦で来館している東京都内の女性(68)は「普段は控えているけど今日は遠慮なくしゃべれます」と歓迎します。ただ、アンケートで「静かで落ち着いている美術館」と評価されてきたため「フリートークデー」はこれまで定休だった月曜にしました。学芸員の黒沢愛さん(27)は「リラックスした来館者の表情からも楽しげな様子が伝わります」と話します。

また、東京都美術館(台東区)が昨年7月末の休室日を中学生以下とその家族だけの「キッズデー」に設定したところ、館内は子どもたちであふれました。やや薄暗い館内の雰囲気もあり、子どもたちは集中してゴッホやモネの作品に見入りました。千葉県柏市の30代の母親は0歳児の長男をベビーカーに乗せ「産後初めて美術館に来られました」とうれしそうでした。

こうした取り組みは全国に広がっています。静岡県立美術館(静岡市)や町田市立国際版画美術館(東京都町田市)では、いずれも通常開館日の毎週水、土曜に設定しました。

8月から毎月第1日曜を「会話を楽しむ日」にした「神奈川県立近代美術館 葉山」では約30人の来館者にインタビュー形式の調査をしました。その結果「会話を楽しむ日と分からないほど静かだった」という感想や「おしゃべりが生まれるような(イベントや構成などの)工夫や、話をしやすい環境づくりも必要」と課題を挙げる人もいました。

調査を担当した立花由美子さんは大英博物館でのインターン経験があります。にぎやかな海外のミュージアムの様子を目の当たりにし「作品に興味を持った結果として会話が生まれるのは不思議なことではない」と考えます。ですが「海外で当たり前でも日本の各館のコンテクスト(状況や背景)を知ることなしに『会話を楽しむ日』の導入はできないのです」と調査のきっかけを語ります。確かに、美術館での会話についての考え方は個人差があります。立花さんらの調査でも9割以上が会話を楽しむ日を「継続してもよい」と答えましたが、その日を利用するかどうかという問いには約3割が「その日は避けたい」と述べました。

キッズデーの美術館(イラスト)●本来は規制なし

展示室は静かに、というのは何のためなのでしょう。どの学芸員も「あくまでマナー。作品保護や周囲への気遣いができれば会話は制限されていません」と口をそろえます。美術館における教育普及活動に取り組む大原美術館(岡山県倉敷市)はウェブサイトで「美術館には理由のない規制はない」と館の方針を明確に示します。「全ての理由が『作品を守る』『他のお客様の迷惑にならない』という二つに要約されます。これを守れば、ゆっくりとおしゃべりをしながら展示場をめぐっていただいてもよいのです」

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でも議論を呼んでいます。和歌山県立博物館のある学芸員は展示室で解説中、来館者から「うるさい」と言われたことがあったそうです。他施設の見学中に注意されたこともあり、5年前に「同質でないものを排除する論理になっていないか」とツイッターでつぶやきました。

すると次々に意見や経験談が集まりました。「作品に入り込むには静けさが必要」「トークフリーデーは折衷案としてはいいが、平時にトークしづらくなる」

この学芸員は「ミュージアムは感動を共有したり疑問点をディスカッションできたりする場所」と考えます。静寂の場であるべきかどうかについては「何のための場所かを考えるためにもさらに議論が必要」と話しました。

●集客の狙いも

文部科学省の社会教育調査によると、動物園などを含む博物館全体の入館者数は微増しています、美術館は減る傾向にあります。おしゃべり可の広がりは来館者増につなげたい美術館の狙いもあるのです。

商品はドラッグストアやEC(電子商取引)サイトなどで販売しており、情報企画部の菊池正子マネジャーは「安定的に売れています。秋以降、消費者からの問い合わせが増えており、生産が追いついていないのです」と説明します。「需要はあると思うので、今はヨーグルト風味の1種類ですが、今後は他のフレーバーについても検討していきたい」と話しています。

ミュージアム・マーケティングに詳しい河島伸子・同志社大教授(文化経済学)は「ミュージアムが『全ての人に開かれた施設』という理想を掲げていてもニーズは多様」と分析したうえで「従来の高齢者層だけでなく、新たな来館者を獲得したい施設の取り組みの一環なのでしょう」と背景を指摘します。瀧端真理子・追手門学院大教授(博物館学)は「展示作品の種類や時間帯によっても館の雰囲気は異なり、どのくらいの話し声を迷惑と感じるのかは個人差があります。いずれにせよ、各施設が持つポリシーを明確に示すことが大切」と、館の性格や自主性に重きを置いています。

◇会話可など特別な日を設けている主な美術館
▽三菱一号館美術館(東京都)     毎月最終月曜
▽戸栗美術館(東京都)        毎月第4月曜
▽町田市立国際版画美術館(東京都)  毎週水、土曜
▽神奈川県立近代美術館葉山(神奈川県)毎月第1日曜
▽静岡県立美術館(静岡市)      毎週水、土曜
▽新潟市新津美術館          毎月第1・3の木、日曜
※名称は「トークフリーデー」「会話を楽しむ日」「こどもタイム」など。設定日は原則


毎日新聞生活報道部

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