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中食が支えるコメ消費


糖質制限をする女性(イラスト)米に逆風が吹いています。その背景の一つに、ここ数年続く「糖質制限ブーム」があります。ダイエットによいとして、米や小麦、イモ類など糖質(食物繊維を除いた炭水化物)の摂取を控える食事です。

余波は外食産業のチェーン店にも及びます。ご飯と相性のよい牛丼にも「糖質制限」をうたったメニューが登場。店に行き、注文してみました。なんとご飯はゼロ。代わりにゆずポン酢を使った野菜と豆腐がどっさり出てきました。牛肉の豆腐サラダを食べているような感覚でしたが、味は意外においしいものでした。すし店では米(しゃり)なしのメニューも出ています。

米の消費は半世紀以上も減り続けています。農林水産省によると、1人当たりの米の年間消費量は1962年度の約118.3キロをピークに減少の一途をたどり、2016年度は約半分の54.4キロに落ちました。糖質制限ブームでさらに拍車がかかる恐れがあります。

なぜ、消費は減り続けるのでしょう。パンはそのままで食べられますが、ご飯は水に浸して炊く時間と手間がかかることが大きいとみられています。米の生産や消費の推移を見てきた公益社団法人・米穀安定供給確保支援機構によると、どの世代でも調理の簡便化志向が強く、特に女性の就業増加で朝のご飯食が減ったことが大きいといいます。さらに、経済的な豊かさとともに肉類や揚げ物の摂取が増え、主食に頼らなくてよくなるなど食の欧米化も背景にあります。

●おにぎり販売は増

しかし、そろそろ歯止めもかかる可能性があります。家庭の食と外食・中食(なかしょく)の事情に詳しいフードコンサルタントの池田恵里さんは「最近は米離れというより、米の消費が弁当や総菜など中食に移行しています」とみます。家庭内で手間ひまかけてご飯を炊くのは面倒ですが、おにぎりや弁当など簡単に食べられるような形で提供されるというわけです。

16年の総務省の「家計調査」によると、弁当、おにぎり、すしなど米を使った主食的調理食品の支出は、70年に比べて、約3倍に増えています。日本惣菜協会の「惣菜白書」によると、16年の総菜(中食)の市場規模は9兆8399億円。農業総産出額(約8兆8000億円)を上回ります。総菜の食材の内訳を見ると、米飯類が約50%を占めてトップになっています。

業態別では、コンビニエンスストアでの販売額が約32%を占め、専門店(約30%)やスーパー(約26%)を超えます。セブン―イレブン・ジャパンが展開する全国約2万店で、1年間に売れるおにぎりの数は、6年前に比べて約8割増の約21億個(今年2月時点)。驚異的な伸びです。

「カリスマフード 肉・乳・米と日本人」を著した食文化研究家の畑中三応子さんは「戦後の食生活は、欧米化したといわれますが、いろいろな食材を食べる選択肢が増えただけで、米そのものが嫌われたわけではありません」と見ます。

70年代は女性の働く比率が40%台で、専業主婦の女性が家庭で手料理の食事を作っていましたが、時代は変わり、中食が米の消費の減少を食い止めている格好なのです。

一方、「味の素」が12年に20〜79歳の女性2064人を対象にした調査によると、「夕食によく出てくるメニューは何か」(食材を複数回答)に対して、夫のいる女性と単身女性とも、ご飯が9割を超え、断トツでした。このほか、みそ汁、魚料理、煮物、豆腐、漬物も定番のメニューでした。朝、昼はパンや麺類でも、夕食はご飯を主食とする和食が今も人気なのです。

おいしい!カレー専用米(イラスト)●カレー専用の米も

米販売店も米の販売に工夫をこらします。若者でにぎわう東京・原宿にある小池精米店は、外食のメニューに合わせたブレンド米を考案し、人気を集めています。原宿のレストラン向けにカレー専用のブレンド米を考案。価格は1キロあたり400円台で高くはありません。カレーのルーに合うよう、米の表面はやや硬めですが、米の粒が大きく、中身は甘く、粘りがあります。食べてみると確かにカレーのルーが大きな粒と粒に絡まりおいしいのです。3代目の小池理雄店主は「おいしい食べ方を提案すれば、まだ米に活路はあります」と話します。

それでも、糖質制限ブームの影響は大きく、米業界の危機感は強いです。日本医師会と米穀安定供給確保支援機構は昨年11月、「ライフステージにおける食生活と健康」と題し、日本型食生活の大切さを訴えるシンポジウムを開きました。そこで講演した福岡秀興・早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構招聘(しょうへい)研究員(産婦人科学)は「妊娠期に糖質制限を実行してはいけません。9歳の段階で肥満になるなど赤ちゃんに悪影響があるからです」と、行き過ぎた糖質制限ブームに警告を発しました。

農水省も米を主食とする「食事バランスガイド」の浸透に力を入れています。農水省と厚生労働省が05年、健康的な食事のお手本として、コマの絵の形で表した日本型食生活のモデルです。主食のご飯、魚・肉などの主菜、野菜・豆類など副菜、牛乳・乳製品、果物という五つの食材をバランスよく組み合わせています。米はエネルギー比で約50〜60%を占めます。糖質制限派は50%よりはるかに低い数値を主張しているだけに、隔たりは大きいです。


毎日新聞生活報道部

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