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魚食復権へ


魚の値段を見てつぶやく女性(イラスト)「食べ盛りの子どもが2人いるので、おかずは安いお肉になりがち。魚よりも喜ばれるし、調理も簡単ですから」。千葉県市川市のスーパーで食材を選んでいた40代女性は語りました。魚を買うなら切り身がメインだそうです。別の60代主婦は「昔に比べて値段も高くて」とポツリ。少し迷い、刺し身の小分けパックを手に取りました。

●価格上昇で敬遠

日本人の「魚離れ」が叫ばれて長いことたちます。価格が年々上昇していることや、調理に手間がかかることから敬遠する人が多いのです。日本チェーンストア協会によると、かつて食品スーパーで花形といわれた水産部門も、2016年度の部門別販売額は約7700億円しかありません。10年前と比べて約1500億円も減少しました。肉とは対照的に右肩下がりが続きます。面積を縮小した店も少なくありません。さらに、昨秋は全国的な不漁でサケ、サンマといった身近な魚が高騰し、庶民の食卓からますます遠ざかっていきかねないのです。

いかに魚を食べてもらうのでしょうか。水産庁は消費者の「簡便化」と「美食」志向が消費回復の鍵とみて、魚食拡大の施策を官民で連携して進めています。その一つが、12年にスタートした、ひと手間加えるだけで手軽に食べられる商品「ファストフィッシュ」の普及です。調理時間や買い物時間の短縮が想定され、気軽に購入できる価格のものが対象です。昨年3月までにレンジで温めるだけのものや小骨ごとフレークにしたものなど延べ607社の3243商品が選定されています。

16年に国内のコンテストでグランプリに輝いたのが「東平商会」(静岡県長泉町)の「いとうナゲット」です。静岡県伊東市のいとう漁協が水揚げしてすぐに加工したサバのすり身にみじん切りのキャベツやタマネギを混ぜています。独特の臭みがなく、オーブントースターで焼くだけで食べられます。学校給食に採用され、県内の大手スーパーでも販売されるようになりました。

売り上げは順調に伸びています。昨年12月にはサバのさつま揚げの販売も始めるなど新商品の開発を進めています。食品部の担当者は「定置網に掛かって値の付かないものを活用して消費してもらおうという思いから生まれた商品ですが、魚食普及に役立てばうれしい」と話します。

ファストフィッシュでお魚料理を簡単に!(イラスト)●サバ缶人気定着

ファストフィッシュのはるか以前からあった缶詰も、近年は良質な素材にこだわった商品が誕生しています。東日本大震災を機に保存食として見直され、おいしさや健康面でのメリットを再発見する消費者も増えました。

茨城県神栖市の「高木商店」は、地元の波崎港や利根川を挟んで隣接する千葉県の銚子港で水揚げされたサバやサンマ、イワシの缶詰を年間約4000万缶製造しています。「他社にないもの、より良いもの」をコンセプトに、サバと県産のネギを組み合わせた缶詰「ねぎ鯖(さば)」は話題を呼びました。

水揚げされたサバをその日のうちに詰めた「朝獲(ど)れさば」シリーズなど自社商品は約30点に及び、ネット販売も好調だそうです。担当役員は「簡便化志向の消費者にとって、水産缶詰は格好のスタイル。保存も利くし、使い勝手もいいのです」と話します。

日本缶詰びん詰レトルト食品協会によると、16年の水産の缶・びん詰の生産数量は約11万トンで、10年ほど横ばいが続きます。その中で、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含み健康にいいとされるサバ缶は3.7万トンで1万トン増えました。

サバの魅力を伝える活動をする「全日本さば連合会」では「サバ缶は汎用(はんよう)性が高く、和洋中といろいろな料理に使えます。血行促進や美白にも効能があり、ブームは定着しました」と分析します。「サバを含め、産地の思いを知りながら魚をたくさん食べてほしい」と話しています。

売る側も魚食復権のために、工夫をこらしています。セブン&アイ・ホールディングス(東京都)は昨年11月、愛知県日進市にオープンしたショッピングモールの核テナント「イトーヨーカドー赤池店」で新しい食品売り場を提案しています。精肉・青果・鮮魚売り場を集約した「マルシェゾーン」をトップに置き、旬の食品が並ぶ様子はまるで市場のようです。ただ商品を並べるだけの旧態依然とした魅力のない売り場とは一線を画しました。鮮魚はさばいたりおろしたりするサービスもあり、売り上げは順調に伸びています。

イトーヨーカ堂鮮魚部の井上浩一シニアマーチャンダイザーは「売り方も売る商品も、新しい価値観を提示しないとお客様の心に響きません」と話します。そのために昨秋から取り組みを本格化させたのが「クッキングサポート」コーナーの充実です。「調理方法が分からない」という客の要望に応え、焼いたり煮たりする以外の調理法、半調理済み商品の紹介、メニューの提案などをします。魚はその中心的な食材になっているのです。「魚を使った炊き込みご飯にしても『ひと手間だけで作れます』と紹介することで、販売が伸びてきています」

同時においしさを求めている消費者のために、厳しい基準をクリアした「顔が見えるお魚」シリーズにも取り組んでいます。9月に販売を始めた完全養殖のマダイが人気に。今後はブリも取り扱う予定です。

◇魚介類消費量、01年度の6割に

食用魚介類の消費量は減り続けています。農林水産省「食料需給表」によると、1人当たりの年間消費量は2001年度の40.2キロをピークに、16年度は24.6キロにまで落ち込みました。一方、同じたんぱく源の肉類消費量は増加しており、11年度に魚を上回りました。

総務省の「家計調査」によると、1世帯当たりの年間購入量は16年が27.2キロで、07 年の38.4キロから右肩下がりです。一方で支出金額は4.5万円前後で推移しています。水産庁は「価格が上昇し購入量は減りましたが、購買意欲は衰退しているわけではありません」とみています。

日本政策金融公庫の調査では、主菜となる各食材の摂取量で「魚介類を増やしたい」との回答は肉類を大きく上回っています。水産物に含まれる栄養素は豊富で、健康面で優れた機能が多くあることが大きいといえます。一方、調理に対する考え方は「できるだけ簡単にしたい」「おいしいものを作りたい」が多かったです。

こうした消費者の簡便化・美食志向に対し、各現場では消費回復に向けたさまざまな取り組みが続き、魚食普及に向けた食育も進められているのです。


毎日新聞生活報道部

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