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香りがすぎる?柔軟剤


隣家から漂ってくる洗濯物のにおいが気になる女性(イラスト)柔軟剤のにおいは、どこまで気になりますか?

「柔軟剤のにおいが苦手だ」という声をよく聞きます。

静岡県に住む女性(55)は、3年前に引っ越してきた隣家から漂ってくる洗濯物のにおいに悩んでいます。自宅の窓と隣家が洗濯物を干すベランダの距離は約1メートル。頭痛や気分の悪さを感じることがあり、我慢しきれず昨年の夏、隣家に「香りのやさしい柔軟剤に替えてもらえませんか」と頼みました。答えは「夫の体臭がきついので(香りが強い)外国製の柔軟剤を使っている。気になるなら窓を開けなければいい」。行政の窓口に相談したが、「規制がない」と対応は鈍かったそうです。

柔軟剤のにおいが注目を集めるようになったのは、香りの強い外国製品が出回り始めた2000年代後半以降のことです。国民生活センターは13年9月、業界団体に対し、においが周囲に与える影響に配慮を促す注意表示や啓発活動を行うよう求めました。これを受け、メーカー各社は製品ホームページに「適正量を守り、周囲の方にも配慮しながら、シーンに合わせた香りの強さでお楽しみください」などと表記し、使いすぎに注意を促しているのです。

●消費者ニーズ受け

そもそも柔軟剤に香りは必要なのでしょうか。

あるメーカー大手が消費者約600人を対象に「柔軟剤に求めるもの」を調査したところ、(1)香りの良さ(2)衣類を柔らかく仕上げる(3)防臭(4)静電気防止(5)抗菌――の順でした。これらのニーズに合わせ、香り重視▽香りは弱いが柔軟効果の高さ重視、など複数ブランドの柔軟剤を商品化しているのです。赤ちゃんの衣類用として無香料と香料入りの2種類の柔軟剤を販売する別の会社も「人気があり売れているのは香りがついたほう」(広報室)といいます。消費者は柔軟剤の香りを当然のものとしてとらえているようです。

●無意識に清潔表現

日本人はもともと、香水などの強い香りを身にまとう習慣がなかったはずですが、なぜ柔軟剤の香りはここまで浸透したのでしょう。嗅覚心理学を専門とする大学教授は「戦後の貧しい時代から物質的に豊かになり、機能性、コストなどさまざまな面から商品開発が進んだ。生活に余裕が出て価値観も多様化する中で、柔軟剤の最後の付加価値が香りだった。今は香りそのものにこだわっているわけではなく、当たり前のものとしてむしろ意識せず使っている人が多いのではないか」と分析します。

香りに対する日本人と欧米人の違い(イラスト)また、日本人は、欧米人のように体臭を強い香りで打ち消すのではなく、入浴や洗濯の回数に気を配り、においそのものをなくそうとする傾向があります。「『つけている』ことより『洗っている』こと、清潔にしていることを無意識に表現しているのです」。柔軟剤やシャンプー・コンディショナーの香りが増加する背景には、こうした事情もありそうですね。

柔軟剤のにおいが気になる人の訴えは、人間の認知特性として理解できるといいます。自分が子どもを持って初めて、この町ってベビーカーがこんなに多かったんだ、などと思った経験はないですか。もちろん自分の町で急に子どもの数が増えたわけではありません。気にしているものに対しては注意がひかれる、という認知特性が人間にはあるからです。視覚や聴覚だけでなく、嗅覚にも同じことが言えます。「『正体』が分かりイメージが鮮明になったにおいは、実際より強く感じることが多く、一度気にし始めたら気になって仕方がない。出すほうは無意識で、受けるほうはますます敏感になる。騒音問題と似ているかもしれません」。教授はそう話しました。

●健康不安訴える声

においを気にする人の中には、前出の静岡の女性のように健康面での不安を訴える人もいます。香料は、少量でもアレルギーを引き起こしたり、化学物質過敏症を発症したりする場合があるのです。年間約2000件の相談、問い合わせを受けているNPO法人化学物質過敏症支援センター(横浜市)は「柔軟剤のにおいに関する患者からの電話は、今も毎日のようにあります」と話します。「職場や学校、公共の乗り物など人の集まるところに全く行かないというわけにもいかず、患者はつらい思いをしている。自衛策はマスクぐらいしかないでしょう」

「香害」という言葉もあり、好き嫌いだけでは片付けられそうにありません。柔軟剤を使用するときは適正量にとどめ、周囲への配慮を忘れないようにしたいものです。


毎日新聞生活報道部

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