お役立ち情報/情報ものしり帖


保育所求め引っ越し


保育所の待機児童問題が解決しない中で、子どもを認可保育所に入れるため、少しでも有利になろうともがく親たちが引っ越しを選択するケースも少なくありません。どんな実態があるのでしょう。

保育所を求め引越しをする家庭(イラスト)●「待機ゼロ」の実態

「まだ4年半しか働いていないからキャリアが足りなくて……。いったん辞めたら再就職できないんです」。東京都心の喫茶店で、女性会社員(27)はそう言いながら、ベビーカーで眠る長女(1)の手をなでました。認可保育所に入れようと、自治体間をさまよってきたそうです。

昨年7月、夫と結婚前から一緒に住んでいた東京23区から、生まれ育った横浜市に引っ越しました。「自宅が実家から近ければ、復職後に母親に助けてもらいやすい」と思ったからです。市が「待機児童ゼロ」の実績を掲げて脚光を浴びた記憶も新しかったといいます。

「1階に保育所があるから送迎が楽だろう」と、気軽に大規模マンションの一室を借りました。そこにあったのは認可保育所。しかし入所を待っている子どもが3桁に上っていたそうです。まだ築3年のマンションには、結婚を機に入居して子どもができた夫婦が多かったけれど、最も近い階下の保育所には誰も入れない有り様でした。

横浜市は認可保育所に入所を申請した子どものうち、入れなかった子どもを「保留児童」と定義しています。「待機児童ゼロ」を発表した2013年も、実は保留児童が1746人いました。「紛らわしい言葉遊びにだまされた」。そう話す女性は今年2月、夫の通勤時間や住み慣れた環境を考え、元々暮らしていた23区にたった7カ月でとんぼ返りしました。

●認可外に不信感

「今度こそ認可保育所に入れよう」と勉強しました。入所を希望する世帯を審査するために自治体が導入しているポイント制は、「どれだけ保育が必要か」を点数化し、高い人から入所を認めるものです。待機児童になれば加点されるため、女性は10月に横浜で入所を申し込んでおきました。

しかし、あえなく落選。復職していなければ待機組でも加点されない自治体が多いことを後で知ったそうです。「その1点があれば、せめて臨時保育所に入れたはずなのに」。統一されておらず分かりにくいシステムに泣きました。

勤務先の大手IT会社では、同期が4人も待機児童を抱えています。女性は背に腹は代えられず、認可外保育所を見学しましたが「空きがあるのは劣悪な環境の施設ばかりだった」。夫は認可以外を拒絶するようになったそうです。復職の期限は、有給休暇を最大限使っても今夏に迫っています。

引越し先を相談する女性(イラスト)●「ゆがんでいる」

企業の依頼で、社員が希望の保育所に子どもを入れられるようサポートしている「マザーネット」(大阪市)によると、「どうしても認可保育所に入りたくて引っ越し先を相談してくる人はよくいる」そうです。13年12月のサービス開始以来、20人ほどの「保育所移民」に協力してきました。「引っ越しても必ず入れるとは限らないことが、ある程度は理解され、16年度は少し減った印象があります。それにしても、せっかくの育休なのに、保育所に入れるか不安で過ごすのは気の毒」と語ります。

引っ越しが奏功しない理由はさまざまです。待機児童が少なめの自治体には、やはり待機組がなだれ込みやすいものです。入所競争が激しくなれば、ポイントの基準が逐次変わることになります。最近も、育児休暇を切り上げて入所を有利にする人が増えたため、育休を十分に取った人も同点になる「育休加点」の新設や、兄弟姉妹が同じ保育所に通えるよう配慮する「きょうだい加点」の見直しといった動きが出ているのです。

こうした変更は、さらに細かい項目に及び出しています。東京都墨田区に住む30代の女性会社員は2年前、妊娠中に転入してきました。長女を認可保育所の1歳児クラスに入れるため必死でした。上司と同僚に頼み、残業を一切免除してもらって「年収が低い世帯」となりました。

しかし17年度入所の申し込みで、ポイントが同点だった入所希望者について「居住年数の長い世帯」が「年収の低い世帯」より優先されてしまいました。16年度と逆転する形になったのです。女性は結局、すべての保育所で入所がかなわず、育休を延長しました。「十分に勝算があって引っ越しを選んだのに、土壇場で行政にひっくり返された」と憤ります。区幹部は「定住層を増やしたい自治体の思いを反映した対応。保育所に入るために転居するような最近の風潮にも一石を投じたかった」と説明し、こう続けました。

「働きたい親が追い込まれ、引っ越しせざるを得ない保育はゆがんでいる」


◇保育所の形態
・認可保育所
保育士の人数、保育室の広さなどで国の基準をクリア。公立、私立も有り。保育料は世帯所得によって変わるが、国や自治体の補助があるため親の負担は比較的少ない。
・認証保育所(自治体で名称は異なる)
自治体が独自に定めた基準に沿い、補助を受けて運営。認可保育所よりも開所時間が長いため、共働き世帯などのニーズに合った対応ができる。保育料には上限があり、選考方法は保育所によって異なる。東京都の認証保育所の場合、「駅前基本型」(0〜5歳)と「小規模、家庭的保育所」(0〜2歳)がある。
・認定こども園
0〜5歳児が対象。保育所と幼稚園を合わせた機能がある施設。3歳以上であれば親が働いていなくても預けられる。都道府県の認定基準を満たして運営されている。
・認可外保育施設
国や自治体からの補助がなく、保育料で運営されているため保育料は高めに設定される。宿泊保育など細かい対応が可能だが、保育の質にばらつきが目立つ。ベビーホテルなどが該当。
・地域型保育
0〜2歳児を対象に、少人数単位で保育する。開所時間が短め。保育料は所得に応じて変わる。保育ママなど4タイプに分かれる。


毎日新聞生活報道部

Copyright© 2003 - 2017 Kyoei Fire&Marine Insurance Co.,Ltd. All rights reserved
※掲載されている情報は2017年5月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。