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日本にも液体ミルク


7月の西日本豪雨の際にも、海外から緊急輸入され、話題になった「乳児用液体ミルク」。成分や表示について国の基準が作られ、8月から国内での製造、販売が可能になりました。育児は楽になるのでしょうか。

東京都墨田区の女性(32)は8カ月の長女を連れて外出する際、魔法瓶2本にお湯と水を入れ、哺乳瓶2本とともに持ち歩いています。粉ミルクはビニール袋に小分けしています。近年は授乳室が整備された施設も増えましたが、長女がおなかをすかせるタイミングは読めません。泣く子を抱え右往左往すると周囲の目が気になります。女性は「荷物も軽くなるし、赤ちゃんを抱いたまま用意ができます。乳児用の液体ミルクが販売されるのが待ち遠しいです」と話します。

作るのに時間がかかる粉ミルク(イラスト)●利用「希望」5割

70度以上のお湯で溶いたあと「人肌」まで冷ます手間がかかる粉ミルクに対し、液体ミルクは開封するだけで簡単に利用できます。夜間や外出直前で急いでいる場面でも活躍しそうで、親の期待も高まっています。江崎グリコ(大阪市)が7月、乳児の父母1000人に調査したところ、液体ミルクを「使いたい」との回答は「ぜひ」「どちらかというと」を合わせ51.8%と過半数に上りました。使いたい場面は「外出時」「災害時などの緊急時」が多かったです。

逆に使いたいと思わない人は「常温で長期保存して大丈夫なのか」という衛生面や安全性への不安が多かったです。しかし、保存についても「常温でも赤ちゃんの消化機能に影響はありません」と順天堂大大学院の清水俊明教授(小児栄養消化器病学)は説明します。

これまで日本では、母乳の代わりは粉ミルクでした。しかし、液体ミルクは2011年の東日本大震災や16年の熊本地震の時に被災地で活躍したのです。熊本地震の際は、海外メーカーが支援物資として提供し、国内での製造を求める声が上がりました。

●発売は1、2年先

人工乳のシェアは国によってまちまちです。明治(東京都中央区)などによると、フィンランドは液体が8割ですが、米国、フランス、ドイツでは1割に満ちません。また、オーストラリアでは液体ミルクは市販されておらず、病院だけで扱っているそうです。

国内では日本乳業協会(東京都千代田区)が09年、政府に液体ミルクの規格を作ってほしいと要望したものの、安全性や費用面の審議に時間がかかっていました。しかし、災害対策のほか、政府がとりまとめた「女性活躍加速のための重点方針2017」にも液体ミルクの普及が盛り込まれ、急展開しました。

育児休業を取得する男性は17年度で5.14%とまだ低いです。液体ミルクが「男性の『直接育児』の参加を促す一つのきっかけになります」(元日本産科婦人科学会理事長の吉村泰典・慶応大名誉教授)というわけなのです。

製品化には、成分などについて厚生労働省の承認を受け、表示に関して消費者庁の許可を得ることが必要です。ただ、販売容器での保存期間の試験などが必要で、実際に売り出されるのは1、2年先になる見込みです。

液体ミルクをおいしそうに飲む赤ちゃん(イラスト)●注意事項守って

液体ミルクと粉ミルクを比べると、色と味は粉ミルクに軍配が上がりそうです。液体ミルクは製造時、滅菌のため焦がすので苦みがあるそうです。色も褐色に近いです。成分が沈殿するため、よく振って飲ませないと下痢をおこすことがあります。

液体ミルクは常温で保存できますが、保存期間は粉ミルクが約1年半に対し、液体ミルクは半年〜1年になると想定されています(いずれも未開封の場合)。さらに、常温といえども、保存に想定された温度の確認は必要です。

一方、変わらない点もあります。まず、清潔な哺乳瓶が必要です。日本ではレトルトパックか常温牛乳のような紙パックが想定されており、哺乳瓶に移して飲ませなければなりません。

二つ目は、飲み残しのミルクは捨てることです。特に液体ミルクは空気に触れると細菌が繁殖しやすいとされているからです。開封後の常温保存は厳禁です。日本乳業協会は、赤ちゃんが口をつけていなくても、開封して空気に触れたら、できるだけ早く飲みきることを推奨します。

冷蔵で保存しても、冷蔵庫内が清潔とは限らなくて、飲ませる前に常温に戻す過程で菌が繁殖するおそれもあります。空気に触れないことが重要なので、紙製の場合は、使う前に容器に穴があいていないか確かめましょう。

また、高温にすると成分が変質するおそれがあります。電子レンジは熱の伝わり方にむらがあるため避けたほうが無難です。説明書で再加熱を禁じている海外製品もあります。

乳児栄養の専門家で、東京大客員研究員の本郷寛子さん(国際保健学)は「日本は、乳児栄養についての正確な情報が不足していると感じます」と心配し、「母親と赤ちゃんの健康への影響を考え、必要な場合のみ注意深く使ってほしいです」と訴えています。


毎日新聞生活報道部

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