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シカの生態


秋を象徴する動物として古くから親しまれてきたシカ。北海道から沖縄まで広く分布し、おとなしい印象もついて回る野生動物です。主に本州に生息するニホンジカに注目して調べてみました。

野生のニホンジカ(イラスト)●角の「見た目」重要

ニホンジカを飼育している東武動物公園(埼玉県宮代町)を訪れてみまた。園内のシカゾーンに体を横たえたホンシュウジカのクロマツ(雄)は、つぶらな瞳に茶色の毛並みを持ち、長く枝分かれした雄特有の頭の角がたくましいです。「繁殖期の秋には雄同士が角を突き合わせるので、非常に硬くて鋭い」と、飼育係の大西秀弘さんは説明しました。角は毎年春になると落ち、新しい角に生え変わります。シカにとっては「見た目」も重要で、鳥のとさかやライオンのたてがみのように立派であればあるほど雄として優れているそうです。

国内に生息するニホンジカはエゾシカ、ツシマジカなど7亜種がいます。中でも本州で暮らすホンシュウジカは、奈良市の奈良公園周辺や広島県の宮島で、"顔"としてもおなじみです。人懐っこい印象がありますが、基本的には臆病な動物です。東武動物公園の飼育係、村上夏実さんによると、「野生のシカは人を見れば怖がって逃げます。動物園のシカは人に慣れていて繁殖期には気を立てて突進してくることもあるので気をつけています」と話します。説明を聞いている間、フェンスの中のクロマツは、大きな耳を常に動かして時折辺りを見回していました。

●10年間で2倍

環境省の推計によると、野生のニホンジカの個体数(北海道を除く)は約300万頭(2015年度)で、05年度から10年間で約2倍に増加したとされています。繁殖力が強く、毒やトゲがあるもの以外、大抵の植物は食べます。そのため近年、農林業への食害や自然植生への影響が深刻化しており、環境省と農水省は、13年12月に「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」として、狩猟や捕獲を奨励し、個体数削減に取り組んでいるのです。

今年8月、東京都立川市の住宅街に体長約1メートルの雄のニホンジカ1頭が迷い込み、警視庁の警察官らが捕獲する事案がありました。思わぬ"珍客"に周辺住民は「びっくりした。こんな所にシカがいるなんて」と驚きを隠せませんでした。大西さんは、野生のシカと遭遇した場合、むやみに近づかず、音を立てて追い払うよう注意を呼びかけます。

シカの生態に詳しい「麻布大学いのちの博物館」の高槻成紀上席学芸員は「野生のシカが人里近くまで広がり、一触即発状態であることを知ることが大切です」と話します。増えた原因については、山村の過疎化による衰退▽耕作放棄地の増加による餌場の増加▽狩猟者の減少――などが関係していると分析しています。「シカの増加は根深い問題。農山村から人が減り、草食獣にとって接近しやすい魅力的な空間が整ったのです」と高槻さんは指摘します。

●先入観捨てて

「おとなしい」という先入観は捨てよう(イラスト)一方、「奈良市一円に生息するニホンジカ」として、国の天然記念物にも指定され、古くからシカと人とが共生してきた古都・奈良では、若干異なる問題が浮上しています。「奈良のシカは人に懐いているのではなく慣れているだけ。野生動物なので想定外の行動を取ることもあります」と警鐘を鳴らすのは「奈良公園のシカ相談室」の吉村明真室長です。13年度50件だった相談件数は17年度180件に増えました。特に訪日外国人の苦情が目立ち、「シカせんべいを与えるのをじらして手をかまれた」などの苦情が寄せられるそうです。また、シカと戯れる動画を撮影しようとした日本人の親子が、体当たりされたという事例も……。吉村さんは苦情が寄せられるたびに救急箱を持参して駆けつけています。外国語表記の注意看板も設置して対応していますが「シカだって人間に腹を立てることはあります。おとなしいという先入観は捨てて、警戒を忘れずに接してほしいです」と話しました。


毎日新聞生活報道部

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