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山歩きの楽しみ


野山は心が弾みます。中高年が無理なく遊べる山歩きを紹介します。トラブルなく安心して楽しむためにも、正しい知識と技術を身につけたいものです。

山頂に立つことにこだわらず、都市周辺の丘陵や山地にある低山(登山用語で大まかに標高1000メートルまでの低い山を指す)をゆっくり進み、自然の中で過ごす時間を楽しむのが山歩き。「魅力は未知の風景、特に美しい自然の風景に出合えることではないでしょうか。好奇心や冒険心も満たされ、心身ともにリフレッシュできる最高のアクティビティーなのです」

そう語るのは、登山やアウトドアなどを専門とするライターで、「55歳からのやってはいけない山歩き」(青春新書プレイブックス)の著者、野村仁さんです。まず、山歩きと健康の関係について解説してもらいました。

かつて「きつい、危険、汚い」と言われていた登山ですが、1990年代ごろから低山ハイクが注目され、中高年世代の人気を集めるようになりました。健康維持のためウオーキングが推奨されるようになった頃ですが、ゆったりとしたペースで山を歩くことは、ウオーキング以上に有酸素運動の良さを生かすことができるそうです。

山歩きで体力強化、精神安定(イラスト)●体力強化、精神安定

「ややきつい」と感じる適度な強度で歩くことで、肺と心臓の機能が強くなり、筋力・持久力もアップします。ストレス解消など精神面にもよい影響を与えてくれます。未知の風景を訪ねることで飽きもこない。「山歩きは『老けない心と体』に最適なのです」

そのためには体を慣らす準備が必要です。日常生活の中で歩くことを習慣にし、基礎的な体力をつけておきたいものです。まずは駅の階段や坂道を意識的に歩くこと。地図を手に自宅周辺を探索すれば、新たな発見があるかもしれません。自治体が指定するウオーキングコースを歩くことも、楽しんでできるトレーニングの一つです。

山へ出掛けることになったら、自分の体力、経験、技術度に見合った計画を立てる必要があります。低山でも、転落や転倒、ルートミスなどの危険があります。登山靴、バックパック、レインウエアの「3大用具」に加え、ヘッドランプや地図・コンパスなども準備したいものです。

●美しい景色を満喫

10月下旬、野村さんの案内で、神奈川・丹沢山地の大山(おおやま)(1252メートル)の初級者ルートを記者も歩きました。

小田急線の秦野駅からヤビツ峠(761メートル)に向かうバスは、平日なのに臨時便を含む2台が超満員。案内板も整備されていますが、地図を確認しながら山頂を目指します。時折雷鳴が聞こえますが、日が差し込んできます。傾斜を増す登山道を登ると汗が噴き出してきました。展望が開けるたびに、美しい山並みや海岸線が見えました。

「わあ、きれい」。前方を歩くグループから歓声が聞こえました。雪化粧の雄大な富士山の姿が飛び込んできます。その先に紫の美しいフジアザミが群生しています。こうした風景に出合えるのが山歩きの醍醐味(だいごみ)なのでしょう。

山頂で食べる自作の弁当はいつも以上においしいものです。次々と登山客が集まり、体を休めながら眺めを楽しんでいます。

下りは阿夫利神社下社(700メートル)方向へ。古くから庶民が参拝で行き来した登山道。急坂が続き、膝にきます。こちらから山頂を目指す人が多く、すれ違います。ケーブルカーが出ていることもありますが、軽装の人を意外と多く見かけました。

コースタイム(休憩を除いた標準所要時間)2.8時間、ルート全長5.8キロ、峠から山頂までの登り標高差507メートル、山頂からふもとまでの下り標高差960メートル。疲れたら途中でケーブルカーで下ってもよいでしょう。入門編とされるコースでも十分満足できました。

無理せず山歩きを楽しもう!(イラスト)◇実力を超えない範囲で

「レジャー白書」によると、昨年の国内の登山参加人口は推計650万人で、50代以上が48.9%を占めます。「ピクニック、ハイキング、野外散歩」の参加人口は1610万人。中高年の登山が流行する一方で、けがや体調不良、遭難などのトラブルは続出しています。

警察庁によると、昨年に全国で発生した山岳遭難は2583件、遭難者は3111人で、いずれも統計が残る61年以降で最多。死者・行方不明者は354人に上ります。遭難者の60%、死者・行方不明者の72%を50〜70代が占めています。野村さんは「ブームの広がりで専門的な技術訓練を受けない人も山登りするようになってきました。目指そうとするルートと登山者側のレベルとのギャップ。つまり、難しいルートに安易に挑戦しすぎているのです」と言いました。

野村さんが推奨する初級者のコースは▽累積標高差(単純な標高差ではなく、実際の登山で登り下りを繰り返すうち、登り部分の標高差を全て合計したもの)が500メートル以内▽コースタイムが合計3〜4時間――の2点。コースを決めたら現地情報を集め、午後4時までには下山できるよう計画を立てておくことが大切です。

中高年の初心者は事前に書籍などで歩行技術も学んでおきましょう。斜面の登りと下りは一歩一歩丁寧に。負担を掛けないよう平たんな足場を選び、30分以上歩き続けられるスローペースで。低山でも危険な岩場や急斜面があることを忘れずにいたいものです。

傾斜のきつい登りを一気に終わらせようと頑張ってしまうことで、歩行と休憩のリズムは崩れます。その結果、疲労で動けなくなり、救助を求めるケースがあります。「急ぐことを強要されない自然の中に来ているのだから、ゆっくりと流れる時間を楽しんで」と野村さん。メンバーがバラバラに歩いたり、悪天候なのに中止にしなかったりするのもトラブルの元です。道に迷ったら必ず引き返すようにしましょう。主な登山口にある登山ポストに登山計画書を投入することはもちろん、事前に健康診断も受けておきたいものです。

山歩きは奥が深く、その楽しみ方は無限大に広がっていきます。トラブルを起こさないためにも、自分の実力を超えない範囲で楽しみたいものです。


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2018年12月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。