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男性の更年期


「会社に行きたくない」「疲れが取れない」男性(イラスト)「会社に行きたくない」「疲れが取れない」「やる気が出ない」。そんな症状を訴え、病院を訪れる中高年の男性が増えています。潜在患者は600万人といわれる男性の更年期障害。第一人者の堀江重郎・順天堂大教授(泌尿器科)に聞きました。

男性の更年期障害は、テストステロンという男性ホルモンの減少によって起きます。集中力の低下、イライラ、気力の低下、抑うつ、全身の疲労感、性欲減退、不眠、肩こりなど、さまざまな症状が現れ、「テストステロン減少症」や「加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群」と呼ばれます。

●社会的要因で発症

女性の更年期障害が閉経という「生物学的」な原因で誰にでも起きるのに対し、男性は「社会的」な環境の変化やストレスで引き起こされるのが最大の特徴です。「管理職に昇進した」「ルーティンワークから創意工夫を求められる職場に移った」「長く勤めた会社を退職した」といった変化をきっかけに、40代、50代で発症する人が多いです。誰でもかかるわけではなく、「年のせい」と見過ごされがちです。

典型的なケースを見てみましょう。バリバリの営業マンだったAさん(45)。実績が認められ本社に栄転しましたが、会議やパソコンでの資料作成が多くなり、人間関係にも気を使う環境に。1年ほどたつと、不眠、イライラ、倦怠(けんたい)感に悩まされ始めました。休職を勧められ、心療内科で「軽いうつ病」と診断されたのですが、薬を飲んでもよくなりません。心配した妻に泌尿器科に連れて来られ、血液検査の後、ホルモン治療を開始。医師に指示され、妻と腕を組んで歩くような生活改善も実践したところ、3カ月後に職場復帰を果たし、半年後には再び元気に働けるようになりました。

男性の体は40歳ごろから老化に向かいます。男性ホルモンも20代をピークに徐々に減りますが「重要なのは年齢よりも社会的な環境」と堀江教授は強調します。男性ホルモンは生殖に必要とされます。仕事や社会の中で何らかの自己表現をして評価されると自信を持ち、男性ホルモンが増えるというメカニズムなのです。

●生活改善も指導

診察では、まず血液検査で男性ホルモン値を調べます。少なければホルモンの補充や、薬を処方します。ホルモン剤は注射のほか、塗り薬や飲み薬もあります。前立腺がんの人や、これから子どもを作ろうと考えている人は使えませんが、副作用はないといいます。保険診療でまかなえます。同時に「適度な運動を心がける」「夜更かししない」「ストレス解消に努める」といった生活改善も指導します。最も有効なのは、筋肉を鍛えることと友達を作ることです。筋肉は男性ホルモンを作るため、週3回程度の筋トレをするのがよいでしょう。同窓会で昔の友達に会うと元気になるように、孤食を避け大人数で食事することも勧めます。

女性は更年期を過ぎると症状が治まるのに対し、男性の場合は放っておいてもよくなりません。重症になってから病院に行く人が多いのですが、堀江教授は「早期に治療を始めれば早く治ります。やる気が出ない、トイレが近くなった、体重が増えた、そういう症状があれば泌尿器科を受診してください」と呼びかけます。インターネットでも公開されている男性更年期障害の質問表「AMS調査票」が参考になります。「男性更年期外来」を掲げる病院もあり「日本メンズヘルス医学会」のウェブサイトで専門医を探せます。

うつ病をはじめとするメンタルヘルスの問題を抱える男性社員の中には、更年期障害の人が含まれていると考えられます。「全社員の15%ぐらいを占めると思われます。男性更年期障害は職場環境と密接に結び付いていることを人事担当者が理解して、個々人に合った働き方ができるような改革につなげた方がよいでしょう」と堀江教授は提案します。

男性更年期?気分障害?(イラスト)●心療内科医と協力

心療内科と泌尿器科が協力して診察する医院もいます。東京・市ケ谷の心療内科「市ケ谷ひもろぎクリニック」の渡部芳徳医師は長年、抗うつ剤でよくならない患者が一定数いることを疑問に思っていました。堀江教授と話すうちに、同じ患者でも泌尿器科医には男性更年期に見え、心療内科医にはうつ病に見えることに気付きました。泌尿器科医に来てもらい血液検査をすると、うつ病と思っていた患者の中に男性ホルモン値の低い人たちがいたのです。抗うつ剤を抜いてホルモン治療をしたところ、劇的によくなったそうです。渡部医師は「男性更年期と気分障害はよく似ているので誤診を招きやすいのです。処方する薬も全く違います。2人の専門医が診ることで正確な治療ができます」とメリットを説明します。

男性更年期外来に通うのは中年だけでありません。有料老人ホームオーナーの伊藤繁さん(91)は、LOH症候群と診断され3年ほど前から月2回、ホルモン注射を打ちに通院しています。「前は体の疲れが取れなかったけれど、最近は疲れ知らず。腕立て伏せも毎日100回しているしね。100歳まで働けるかな」と笑顔で話す伊藤さんは、1人暮らしでも仕事を通じて社会とつながり続けています。堀江教授は「若者が少なくなるこれからの時代は、伊藤さんのように男性ホルモンをうまく使って70代でも80代でも人生をエンジョイするのが大切です」と話しています。


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2018年4月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。