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高齢者と賃貸住宅


賃貸住宅で孤独死する男性(イラスト)高齢になると賃貸住宅を借りにくくなり、特に身寄りのない単身者は苦労するといわれます。しかし若い借り手にはないよさがあり高齢者対象の仲介業者も登場しています。高齢者特有の住まいの問題点と、解決のための手立てを探りました。

65歳以上の高齢者に限定して、首都圏中心の賃貸住宅物件を仲介する異色の会社があります。東京都杉並区の「R65」です。2015年5月のサービス開始時から現在まで、約200人の賃貸住宅入居を仲介しました。毎月40〜50件程度の問い合わせがあり、入居者の家賃は6万〜8万円が5割強を占めます。

山本遼社長によると、賃貸住宅を借りている高齢者は全国で約600万人、民間の賃貸住宅を借りているのは約200万人。元気な高齢者は増えていますが、受け入れ先は不足しているそうです。

●長く住む安定性

なぜ、高齢者は借りにくいのでしょう。一つには孤独死の問題があります。風評被害や部屋の汚損から物件の価値が下がれば、次の入居者の募集にお金と時間がかかります。他にも、収入が少ないので家賃の支払いに不安があったり、身寄りがなく保証人を見つけられなかったりします。山本社長は「賃貸は事業なので、リスクがある人に貸しにくいのは当然かなと思う」と話します。

半面、高齢者は入居すると、頻繁に住み替えることはなく長く住む傾向があります。日当たりや防犯面で敬遠されがちな1階の物件も、高齢者にとっては階段を上る負担が少なく都合がよいのです。通勤や通学に不便な物件も、バスの便が良ければ選ばれるケースがあるそうです。高齢者の入居は、家主にとって空室が埋まりやすく、賃貸経営が安定しやすくなる側面があるのです。

家主の本音はどうなのでしょう。都内を中心にアパートなどを経営する男性(54)は「これから空室がどんどん増えていくと思うので、外国人と高齢者をどう入れていくかが大きな課題」と見ます。ただ、「空室は埋めたいけれど、亡くなった場合の遺体や遺品をどうするか対応が難しい」と話します。一方「高齢者でも元気に生活し、働いて収入がある人もいます。入居してもらいたい高齢者も結構います」と述べました。

1階の住宅は高齢者にとって都合が良い(イラスト)●進む孤独死対策

不動産会社はジレンマを抱えます。都内の不動産仲介・管理会社の男性社員(28)は、70歳を過ぎた身寄りのない単身高齢者をどう考えるかについて、「上司や物件のオーナーから『この人は大丈夫なの?』と聞かれた時に何も言えません。自分が『問題ない』と言えない人を審査に通すことはできません」と言います。一方で「単身高齢者が増えていくのは明らか。断り続けていくだけでは、そのうち難しい未来が待っていると思うと、いま考えておくことが大事です」とも強調しました。

R65は、孤独死の対策として、賃貸住宅に見守りサービスや保険を付けることを提案し、導入された物件もあります。見守りサービスは入居者のプライバシーに配慮して、起きた時と寝た時の電気の使用量から、異常があれば登録者にメールで連絡がいく仕組みです。山本社長は「どこの不動産会社でも高齢者を受け入れることができ、自立した高齢者が自分の好きな住まいを選ぶことができるようになればいい」と目指す業界像を語りました。

◇公的支援の活用一手

住まいの確保が難しい高齢者らに向け、国は住宅政策に力を入れていますが、課題も多いです。2017年に国が整備した「住宅セーフティーネット制度」は、全国で計約7000戸が登録され、20年度末までに17万5000戸の登録を目指しています。しかし、行政が積極的な大阪府内の物件が大半を占め、地域的な偏りが大きいのです。栃木▽長野▽滋賀▽和歌山▽鳥取▽島根▽広島の7県の登録件数はゼロで、住みたい地域で物件を探せる状況にはほど遠いです。国土交通省の担当者は「各自治体が積極的に取り組めば、登録数はさらに増えます」と今後に期待を込めます。物件情報は、ウェブサイト「セーフティーネット住宅情報提供システム」で検索できます。

このサイトのトップページに各都道府県の「居住支援協議会」の連絡先一覧を掲載しています。連絡先の電話番号で住まい探しの相談を受け付けます。居住支援協議会は社会福祉法人や不動産業者、地方自治体で構成されます。物件探しの手伝いをはじめ、入居後の見守りサービスの仲介、家賃滞納時の立て替えなどを保証する業者の紹介といった高齢者に役立つサービスを提供しています。

家賃保証は賃貸契約時に月額家賃の3〜5割程度、以後1年ごとに年間1、2万円程度の保証料を家賃保証業者や団体に支払い、立て替えの保証を受けるサービスです。近年は、契約時に連帯保証人よりも家賃保証業者の利用を求める家主が増え、日本賃貸住宅管理協会の17年度調査によると全体の66%を占めます。高齢者は業者の審査に落ちやすい傾向があり、立て替え分を過剰に取り立てる悪質業者もいます。居住支援協議会を介せば、こうしたトラブルを避けることも可能です。

自治体も新たな制度を打ち出しています。東京都中野区は、単身高齢者や障害者向けに安否確認と死後の葬儀・片付けを併せた支援策を始めます。前年の所得が256万8000円以下の人が対象です。区が民間事業者と協定を結び、初回登録料1万6200円を全額補助します。入居者は月1944円の利用料を払い、音声案内での電話の安否確認を週2回受け、安否情報は入居者が指定した連絡先にメールで伝えられます。死亡時の葬儀・片付けには手配と費用補償が含まれます。担当者は「空室を抱える貸主も前向きになれるのでは」と期待しています。


毎日新聞生活報道部

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