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歩きスマホにご注意


危険です。歩きスマホ(イラスト)電車や駅の構内で迷惑な行為に直面したことはないでしょうか。座席の座り方といった以前からあるトラブル要因に加え、スマートフォン普及の陰で「歩きスマホ」という新たな問題も起きています。公共の場では、マナーを守った使い方を身につけることが大切です。

●電車内、突然激高

今年4月、東京都杉並区の男性会社員(29)は通勤中、JR中央線の電車内でスマホゲームに熱中していた男性に手荷物を当ててしまいました。次の瞬間、男性はスマホから目を上げ「いってえな! お前、何ぶつかってんだよ」と激高。胸ぐらをつかまれ、戸惑いながらも「すみません、すみません」と謝って、場をやり過ごしたそうです。この記憶を思い返すたび、恥ずかしさや腹立たしさに加えて、一つの感情が込み上げます。「当たったことは悪かった。だが、公共の場でそこまで怒ることなのか?」と。

電車のドア付近に陣取る▽乗り降りの時に押してくる▽リュックサックが邪魔▽座席を詰めて座らない――。老若男女が利用する電車内や駅構内では、さまざまな迷惑行為が横行し、時にはケンカや暴力に発展するケースもあります。

人間の行動心理に詳しい公立鳥取環境大の小林朋道教授(動物行動学)は「一般的に電車内は逃げ場のない閉鎖空間。乗客は不安、警戒、攻撃意識などの心理が働くので不機嫌になりがちです」と説明します。特に、他人からの危害を避けるために本能的に確保する1メートル程度の空間を「ボディースペース」と呼び、この空間に侵入されると、防御意識や警戒心は高まります。小林教授は「スマホは、のめり込んでいる間はいいけれど、一旦離れると不安や警戒といった意識を増幅させます。その意味では迷惑行為の要因といえるのかもしれません」とみています。

●他者への共感薄く

鉄道事業者でつくる日本民営鉄道協会が毎年実施している「駅と電車内のマナーに関するアンケート」によると、2017年度は迷惑に感じる行為の1位に「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」、2位に「座席の座り方」、3位に「荷物の持ち方・置き方」、次いで4位に「歩きながらの携帯電話・スマホの操作」がランクインしました。

この結果について、関西学院大の阿部潔教授(公共圏論)は「実際の被害よりも特定の振る舞いに対する不快感が主な要因となっています。歩きスマホも含め、『公共の場を皆で支える』という意識が薄まり、匿名の他者に対する共感が持たれにくくなっているのでしょう」と指摘します。現代社会は、コンビニエンスストアや飲食店に見られるようにサービスや物の提供方法が客にとって心地よく、快適であるべきだという考えが浸透しています。鉄道事業者はその最たる例で、時間やルールに極めて厳格。数分の遅延も許されず、おわびのアナウンスを流すなどの対応に迫られているのです。要求水準の高まりを背景として、少しのルールの逸脱が不快かつ奇異に映るのでしょう。

●全盲の人「恐怖」

いつでもどこでも知人や関心事にアクセスできるスマホは便利だが、迷惑行為として大きな影を落としています。

総務省の情報通信白書によると、国内のスマホ普及率は15年に7割を突破しました。東京消防庁管内(稲城市、島しょ地区を除く地域)では、12〜16年の5年間に歩きスマホ等に関係する事故で201人が救急搬送され、16年は過去5年間で最多の58人が搬送されました。場所別では駅構内で起きるケースが多いです。

NTTドコモは14年にJR渋谷駅前(渋谷区)のスクランブル交差点で、青信号が点灯する46秒間に1500人の歩行者全員がスマホを使用しながら横断する場合をシミュレーションした動画を製作しました。最終的には衝突446件、転倒103件、スマホ落下21件で、横断に成功したのは547人だけでした。

健常者でさえ恐怖を感じる歩きスマホ。全盲の人にとっては切迫した迷惑行為といえます。社会福祉法人日本盲人会連合(日盲連)の総合相談室長、工藤正一さん(69)は「私自身はすでに光を失ったけれど、通勤時に家族と歩いていても怖さを感じます」と訴えます。視覚障害者は、白杖(はくじょう)や点字ブロックを頼りに進むため、歩きスマホの人と一度ぶつかってしまうと方向感覚が瞬時に失われます。立ち止まっているわけにもいかず、誤った方向に進めばホームから転落する危険性もあります。日盲連の中には白杖を折られたという会員もいて、熱中気味の歩きスマホに強い危機感を抱いています。

一言、声かけを(イラスト)●一言、声かけを

携帯やスマホなどの通信機器がなかった時代は、電車内や駅構内でトラブルがあっても、見知らぬ他者同士が話しあって「うまくやっていく」ことができました。ところが今はスマホに夢中で自分だけの世界に閉じこもり、直接的なコミュニケーションが希薄になり、トラブルが大きくなることもあります。阿部教授は「自ら被害者になるだけでなく、加害者になる可能性があることを十分認識してほしいです。公共の場に身を置く際には『すみません』の一言でもいいのです。声をかけ合うなど他者との共生の作法を身につけることが単に物理的なものにとどまらない『バリアフリー』につながります」と話しています。


毎日新聞生活報道部

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