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子どもを守る環境づくり


不審者に注意!(イラスト)登下校時や遊び場で子どもたちが狙われる事件は後を絶ちません。「知らない人についていっちゃダメ」と子どもに教えるだけでは被害は防ぎきれないのが現状です。犯罪が発生しにくい、子どもたちを守る環境づくりは可能なのでしょうか。

●「自分で守れ」は酷

日本の防犯対策の「定番」は、子どもが実行するにはハードルが高いものが多いです。

「知らない人についていかない」と教えられていても、声をかけられ話をした大人は子どもにとって「知っている人」になり、ついていってしまう恐れがあります。「危険を感じたら走って逃げる」と知っている子どもも、実際には恐怖で身がすくみ、声を上げられないことがあります。「不審者に気をつけよう」との呼びかけは、サングラスや帽子、マスク姿といった典型的な不審者像が子どもにすり込まれ、それ以外の容姿の人物への警戒感が薄くなってしまいます。

立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「幼い子どもたちに『犯罪者と一対一になったときも自分で身を守れ』と言うのはあまりにも酷。大人が責任を持って犯罪者を子どもに近づけない、犯罪が起こらないような地域環境を作るべきです」と訴えます。

小宮教授は2017年までに97カ国を訪れ、犯罪や紛争を起こりにくくする工夫を凝らしたさまざまな場所を見て回りました。共通していたのは、犯罪者にとって近づきにくく、かつ外部からの視線が届く「入りにくく見えやすい場所」にする取り組みでした。小宮教授は「動機を持った人物が、成功しそうな機会にめぐり合って初めて犯罪が起こります。動機のある人物を事前に見抜くことは難しいけれど、機会は工夫次第でなくすことができるのです」と指摘します。

●実行機会をなくす

こうした考え方は「犯罪機会論」と呼ばれ、犯罪の機会をなくすための街づくりは海外で広く普及しています。

たとえば、イギリス・ロンドンの公園では遊具を一カ所に集めて囲い、子どもに悪意を持って話しかけようとする人物を心理的に遠ざけています。子どもを物色する人物がとどまりにくいよう、遊具の近くにベンチを置かない公園もあります。また、ニュージーランド・ウェリントンの公園では、ベンチが遊具に背を向けて設置されています。付き添いの大人が外側を向いていれば、犯罪者は近づきにくくなり、子どもたちの周りを長時間うろうろしている人物に気づきやすくなるのです。

外から見えにくい場所では、子どもが連れ込まれて犯罪被害に遭いやすいものです。韓国・城南(ソンナム)では、無人になりがちな歩道橋の下の空きスペースにストレッチマシンを設置。犯罪者に「いつ誰が来てもおかしくない」と犯行を思いとどまらせる効果があるそうです。ニュージーランド・オークランドにある外壁が金網でできた立体駐車場は、コンクリート壁で囲まれた駐車場より「見えやすい場所」になっています。

また、公共施設のトイレの配置に工夫を凝らす国も少なくありません。日本では女性トイレと男性トイレが隣り合っていることが多く、盗撮や性犯罪目的の男が男性トイレに行くふりをして女性トイレに入ることも容易です。海外では、犯罪者に女性トイレに近づく理由を与えないため、女性トイレと男性トイレを離れた場所に作ったり、男性トイレを女性トイレの手前に設置したりする事例が見られます。また、個室ドアの下部に広い隙間(すきま)を設け、中に人がいることが外から分かるようにして個室への連れ込み犯罪を防いでいます。

●独自対策で抑止

日本でも、犯罪機会論に基づく防犯対策を取り入れる自治体が徐々に増えています。神奈川県藤沢市で11年に始まった「ホットスポットパトロール」はその一つです。犯罪の起こりやすい条件がそろった駐車場や空き地などを、地域のボランティアが重点的にパトロールしています。市は「プレッシャーを与え、犯行をあきらめさせる抑止効果があります」と話します。また、市立小・中学校と特別支援学校(計55校)の校門から校舎までの地面に、それぞれ明るいオレンジ色の「来校者誘導ライン」を引きました。来校者を装った侵入者が校内を歩き回り、「受付に行こうとしたが迷ってしまった」と言い訳するのを防ぐそうです。

藤沢市では16年、こうした取り組みを「防犯ハンドブック」にまとめました。神戸市も今年4月、公共施設の整備や補修に関わる技術職員向けに、犯罪機会論に基づいた整備指針を策定しました。神戸市危機管理室は「指針を現場でどう生かすのか、今後議論を深めたい」と話しています。

人ではなく景色で判断(イラスト)◇「入りやすく見えにくい」に注意

犯罪から身を守るために、子どもたちに何を伝えればいいのでしょう。

小宮教授は「人ではなく景色で判断することを意識づけて」と呼びかけます。犯罪が起こりやすい条件がそろった「入りやすく見えにくい」場所にいる大人は、たとえ知った人でも注意することです。買い物や遊びなど普段の外出時に、子どもと「ここは危ない場所だね」と会話しながら歩けば、子ども自身が意識し、注意するスイッチを入れることができます。

「見えにくい場所」は、死角の多い場所とは限りません。開けた田畑の間の小道や歩道橋の上、線路沿いの道路など、開けていても人目が届きにくい場所も当てはまります。コンビニエンスストアや雑踏など、子どもを物色する人物が目立ちにくい場所にも注意しましょう。

一方、道路にガードレールや植え込みがある場所では、必ずその内側を歩くよう話しておきたいものです。道路脇に止まった車から話しかけられても、子どもと車の間にガードレールや植え込みがあれば車内に連れ込まれにくいからです。小宮教授は「何気ない景色の中に危険は潜んでいる。それを見つけ出す力を育んでほしいです」と話します。


毎日新聞生活報道部

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※掲載されている情報は2018年6月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。