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高齢者が支え合う未来の日本


町の年齢別人口構成が、65歳以上人口のピークを迎える2040年の日本の構成とほぼ一致する北海道津別町。道東にある人口約5000人のこの町で現在、地域のお年寄りが主体となり、同じ高齢者を支える福祉のまちづくりの実験が成果を上げつつあります。

あの人どうしたのかしら?(イラスト)●困りごとを把握

「1人暮らしで気になる人はいますか?」「隣の〇〇さん、暖房費がかかるって、あまり使っていなくて体調が心配なんだよね。最近老人会にも出てこないし」

津別町活汲地区の自治会集会所では毎月1回、地域の総合相談所「ぽっと」が開かれています。2019年12月には、「担い手」と呼ばれる60代後半〜70代の男女6人を中心に、町の保健師、社会福祉協議会職員ら専門職が加わり、住民から聞き取った話を出し合っていました。

同地区は65世帯中15世帯が1人暮らしのお年寄りです。担い手たちは積極的に近所を訪問し、無事に暮らしているか、困りごとがないかの把握に努めています。ぽっとでは集めた情報を共有して身近なところで問題を解決したり、福祉サービスにつなげたりしています。この日は雪かきが必要な高齢者の把握や、ごみの分別が苦手な人への説明、吹雪や停電時の連絡方法、ストーブの排気口の点検について話し合いました。冒頭の家庭を含め気になる家には後日、保健師が訪問することになりました。

●人口構成に着目

津別町の年齢3区分別割合は10年時点で、65歳以上の老年人口37.4%▽15〜64歳の生産年齢人口52.5%▽14歳以下の年少人口10.1%で、40年の日本の推計人口構成比とほぼ一致しています。この点に着目した大阪市立大の野村恭代准教授(社会福祉学)ら研究者が15年、将来の地域共生社会の実現を模索するため、社会実験を町と共に始めました。

まず町職員らが13自治会499世帯を調査し、支援が必要な人を把握します。引きこもりが11世帯あることも分かりました。このうち2自治会をモデル地区に選定し、住民に活動の意義を学んでもらい、自治会役員や民生委員など約20人に担い手を依頼しました。当初は月2回、総合相談所を開き、自発的にアウトリーチ活動も始まりました。ミーティングで共有する住民に関する情報は、他では話さないことになっています。

住民の一人(70)は「遠慮して話したがらなかった人も、こちらが心配していることを伝えると、体調や家族のことを教えてくれ、万が一に備えることができます。活動を通じて交流が深まり、逆に支えられています」と語っています。別の住民(66)は週3回の透析を受けながら近所を訪ね歩いていますが、「俺も障害者だけど、みんな高齢だし動ける人ができることをやらないとね」と笑顔をみせました。地域のなかで支え合い(イラスト)

●問題解決の姿勢に

活動を続けるうち、地域の中で支え合い、問題を解決する姿勢に変わってきたそうです。町の小野淳子保健福祉課長は「役場で把握しきれない地域の困りごとを早い段階で察知することで予防的に介入できたり、住民ニーズを確実に把握できたりします」と評価しています。

他の地区では担い手と町社協の連携で、15年以上引きこもっていた50代男性は社協が運営する農園に通うようになり、1人で抱え込んでいた母親のケアにもつながったそうです。現在、相談所は町内に4カ所となり、同様の取り組みは、2019年7月から神戸市東灘区でも始まりました。

この社会実験はソーシャルワークの理論が下地にあります。主役は住民ですが、町の専門職の人たちにはその理論を学んでもらいます。野村准教授は「困難を抱えた人が自分で相談窓口に出向くのは難しく、いきなり専門職が行くと拒絶反応を示すことも多くなります。住民は生活者の視点で関わることができるのが強みです。専門職が積極的に関わるなど行政の後押しが必要ですが、いったん支え合いの仕組みができれば深刻化する事例を減らすことができ、行政の負担も減るのではないでしょうか」と意義を語っています。


毎日新聞くらし医療部

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