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加齢性難聴は50代から


年を取ると耳の聞こえが悪くなります。医学用語で「加齢性難聴」といい、早い人は50代から始まります。進行すると周囲とコミュニケーションが取りにくくなり、認知症のリスクも高まります。加齢性難聴の仕組みや対策を探りました。

加齢性難聴の女性(イラスト)加齢性難聴になると、小さい音だけでなく高い周波数の音が聞こえにくくなります。言葉を明瞭に聞き取れなくなり、「声は聞こえるが何を言っているのかがわからない」という状態に陥るのです。本人や周囲が気づくポイントは、体温計の「ピピッ」という電子音や風呂が沸いた通知音に気づかない▽女性の声が聞き取りにくい▽テレビの音が大きくなった▽会話で聞き返しが多くなった▽本人の話す声が大きくなった――などです。

原因は、耳の鼓膜の奥にある「内耳」と呼ばれる部分にある有毛細胞が加齢とともに消失することです。有毛細胞はカタツムリの殻のような形をした「蝸牛(かぎゅう)」内にあり、音である空気の振動をキャッチし、脳に送るための電気信号に変換する役割を果たします。一度消失すると再生は不可能で、加齢とともに誰でも一定程度摩耗していくため、加齢性難聴を根本的に治療することや完全に予防することはできません。聴力の低下が進んだら、補聴器や人工内耳などで聞こえ方を補助することになります。

加齢に伴い「聞こえにくさ」を実感している人は多いです。国際医療福祉大学三田病院耳鼻咽喉(いんこう)科の岩崎聡教授によると、国内の研究では、60代前半で5〜10人に1人▽60代後半で3人に1人▽75歳以上で7割以上――が加齢性難聴になっていると推計され、全国では1500万人以上にのぼると見られるそうです。岩崎教授は「50歳をすぎたころから聞こえにくくなったという自覚のある人は、加齢性難聴の始まりである可能性が高いです」と指摘します。

難聴が進むと、聞き取れる音の情報が少なくなったり脳機能そのものが低下したりするため、一定時間内で処理できる音の情報量が少なくなります。そのため、早口の言葉を聞き取ることも難しくなります。

聴力検査を受ける女性(イラスト)こうした難聴症状が認知症リスクを高めるという指摘もあります。2017年に英国ロンドン大などの国際チームが医学誌ランセットに発表した論文によると、喫煙や高血圧などの危険因子9項目のうち、認知症の発症リスクは「45〜65歳での難聴」が最も高く、危険因子のない人と比べ9.1%リスクが上がるとされました。岩崎教授は「会話は脳全体の機能が働いている状態。難聴が進み会話の頻度が落ちることで、脳機能の低下も引き起こされる」と話します。また、米国では難聴があると転倒リスクが高まるとする研究もあるそうです。

体の酸化によって細胞が傷つけられる「酸化ストレス」も難聴の悪化要因です。酸化ストレスが増加すると血流が悪くなり、有毛細胞の消失につながります。喫煙や飲酒、偏った食事などの生活習慣だけでなく、大きな音を一定時間聞き続けることも酸化ストレスを増やしてしまうのです。

加齢とは別に、遺伝子変異による「遺伝性難聴」のケースがあるので注意しましょう。発症が40歳前後と比較的早く、60歳前後で難聴を自覚する人が多いです。進行が早く、ほとんど耳が聞こえなくなる場合もありますが、根本的な治療法はありません。岩崎教授は「家族が遺伝性難聴と診断された人や年齢の割に聴力が低い人は、難聴遺伝子検査の受診を検討してみて」と話します。遺伝性と判明すれば、年齢経過による症状の予測がつきます。

難聴かもしれないと思ったら、まずは耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を受けて自分がどの程度聞こえているのかを確認しましょう。岩崎教授は「聴力の低下は生活の質に直結します。『もう年だから』と諦めないで、まずは耳鼻科医に相談してください」と勧めます。


◇難聴の程度
軽度  会話の時にしばしば聞き返すことがある。小声やささやき声が聞き取りにくい
中等度 隣室や後ろの会話に気づかないことや、テレビやラジオの音が大きいと注意されることがある
高度  電話の声が聞こえづらいことがある。大声の会話なら聞き取れる
重度  大声で正面から話されても聞き取れないことがある


毎日新聞くらし医療部

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