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捕獲動物のジビエ利用に暗雲


野生の鹿とイノシシが農地を荒らす被害が深刻化しています。国は増えすぎた分を捕獲する一方、肉を処理してジビエ料理の食材に活用する施策を推進してきました。ですが新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店向けの出荷が激減し、普及に暗雲が漂います。新たな需要を開拓できるのでしょうか。

農地を荒らす鹿とイノシシ(イラスト)●防衛省に利用要請

鹿肉を使ったマーボー豆腐やカレー、ハンバーグ、メンチカツに、イノシシ肉のベーコンサンドイッチ――。7月20日に東京・市ケ谷の防衛省内のホールで開かれた、ジビエ料理の試食会。河野太郎防衛相や同省職員ら約70人の前に12品が並べられ、料理の説明を受けながら賞味しました。河野氏は「どれもおいしいが、シューマイなど中華が特に良い」と感想を寄せました。

一般社団法人「日本ジビエ振興協会」が企画しました。

近年、ジビエ料理を飲食店などで目にする機会が増えてきました。しかし、新型コロナの影響で飲食店が休業や営業時間の短縮に追い込まれ、客が利用を自粛する動きも加わって、肉の消費が落ち込みました。そこで、全国各地に所在する基地や駐屯地など防衛省関連施設でジビエ食材の利用を進めてもらおうと、協会が防衛省に協力を要請。その一環で試食会が実現しました。

一部の駐屯地の食堂でジビエメニューを導入する動きがあるほか、防衛省共済組合が運営する宿泊施設で鹿肉の仕入れを検討しているといいます。協会の藤木徳彦代表理事は「駐屯地などは地方にあり、地方の課題解決に貢献する意味でも、ジビエの利用を進めてほしい」と話します。

●生息数増え農業被害

農林水産省によると、2018年度の野生動物による農作物被害額計約158億円のうち、ニホンジカとイノシシによる被害が64.3%(約101億円)を占めました。

鹿は、明治期の乱獲で激減し、捕獲が規制されるほどでしたが、戦後に増加に転じました。その後、耕作放棄地の増加やハンターの減少、地球温暖化による積雪の減少など複数の要因によって急激に数を増やしました。環境省のまとめによると、17年度末時点で、本州以南の推定生息数は244万頭。生息域は、全国で1978〜14年度の36年間で約2.5倍と、国土の6割にまで拡大しました。

一方、イノシシも同様の要因で数が増え、少なくとも80年代から増加傾向が続いているといいます。環境省の推定では、17年度末時点で88万頭。生息域は36年間で1.7倍に拡大しました。

生息数の増加に伴い、農業被害も拡大の一途をたどり、鹿とイノシシによる被害は、10年度に145億円とピークに達しました。その後は減少傾向にありますが、農水省は「被害で営農意欲を失って農業をやめる高齢農家が相次ぐことなどが影響しているという話もあり、被害は高止まり」という認識です。また、金額には換算できない高山植物など希少な植物を食い荒らす被害も報告されています。

そこで、都道府県や市町村は、農地を囲う柵の設置などに加え、増えすぎた分を捕獲し、適正な生息数に抑える取り組みを進めてきました。その結果、鹿は10年度に比べ18年度は1.58倍の約57万頭、イノシシは同1.27倍の約60万頭を捕獲しました。

●コロナで需要減少

これらを埋却や焼却で処分するのではなく、ジビエ食材などとして有効活用しようと、国が本格的に乗り出したのは14年。厚生労働省が、死体の運搬や食肉処理、調理での適切な衛生管理法を示したガイドラインを策定しました。18年には農水省が認証制度を創設し、認証を受けた処理施設では、品質が担保できるようにもなりました。鹿やイノシシ肉は珍しさに加え、豚や鶏に比べ、鉄分やビタミンB12などが豊富に含まれることから、食材として扱う飲食店が増えました。18年度の利用量は、統計を取り始めた16年度の1.37倍の1383トンに。売り上げも35億1000万円となりました。

ジビエ食材は、一般家庭への普及がまだ広がっておらず、飲食店での利用が頼みの綱です。ですが、新型コロナの拡大に伴って消費が激減。鹿やイノシシを扱う処理施設には多数の在庫がある状態といいます。農水省鳥獣対策・農村環境課によると、今年3月と6月に全国の数十施設に聞き取り調査をしたところ、全てで影響が出ており前年度比で出荷が9割減というところもあったといいます。同課の担当者は「東京のレストラン向けや、海外からの観光客が利用するホテル向けの出荷が特に減っているようだ」と指摘します。

ジビエ食材をレトルト食品で(イラスト)ジビエ利用の拡大が足踏みするなか、捕獲した野生鳥獣が無駄に捨てられることが懸念されます。そのためジビエ振興協会は、防衛省などへの売り込みのほか、家庭でも簡単に味わえるレトルト食品の開発や、ペットフードの開発も進めます。レトルト食品は、鹿カレーや鹿シチュー、鹿コンソメスープなど9種類を各1000パック用意し、9月上旬にも販売を始めます。ペットフードは食用に向かない傷んだ肉などを使い、国内外での販売を検討しているといいます。

協会の藤木代表理事は「新型コロナを乗り越え、さらにジビエ利用を拡大したい。ジビエの消費が拡大し、鹿やイノシシから利益が得られるようになれば、捕獲がさらに進んで、適正な生息数に近づけることができる。高齢化する狩猟の現場に若手が入ることも期待でき、狩猟の技の伝承が進む」と強調します。


毎日新聞科学環境部

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※掲載されている情報は2020年9月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。