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広がる「陰性証明」


新型コロナウイルスをめぐり、PCR検査で感染していないことを確認する「陰性証明」の需要が高まっています。医療保険が適用されない自由診療のため1回2万〜4万円程度かかりますが、海外渡航するビジネスマンらの利用が増えています。しかし、陽性なのに陰性と判定してしまう偽陰性などの課題もあり、陰性証明の増加に批判的な医療関係者も少なくありません。

●「コストをかけてでも安心を」増える企業の依頼

陰性証明が通行手形(イラスト)「社員のPCR検査をお願いします」「陰性証明の書類は出してもらえますか」

JR東京駅近くにある「日本橋れいわ内科クリニック」(東京都中央区)には唾液によるPCR検査を始めた7月11日以降、こうした問い合わせが殺到しています。

クリニックでは唾液の採取のみを行い、契約する検査会社に検体を送付します。発熱などコロナ疑いの患者は保険適用と公費補助で無料となりますが、陰性証明の場合は保険適用外で補助もなく、検査料として2万7000円が必要になります。

結果は翌日、オンラインで伝えられます。陰性でも100%の保証はできないため、感染対策を怠らないよう注意喚起するといいます。

8月14日までの約1カ月で手がけた検査は約600件。多くが企業からの依頼でした。社内で感染者が出たものの保健所から「会社内に濃厚接触者はいない」と説明された企業が、「念のため」と希望して感染者と同じフロアで働く社員十数人を一斉検査したケースもありました。

井内裕之院長(36)は「コストをかけてでも安心を得たいという心理が広がっている。地方の企業や病院の中には東京からの来訪者に陰性証明書を求めるケースもあり、検査を受けた人の中には『通行手形』に例える人もいた」と語ります。

●背景に民間の検査能力増強

都市部を中心にこうした陰性証明に取り組む医療機関が増えていますが、背景には民間検査会社の態勢が整備されたことがあります。

厚生労働省によると、7月の全国のPCR検査実施件数は週平均約10万件で4月の約5万件から倍増しました。検査会社によるものは4月は全体の2割程度でしたが、7月は5割超となっています。

検査会社「エスアールエル」(東京都新宿区)は5月にスイス製の全自動PCR検査機器を導入し、1日当たり1000件だった検査能力は8月7日時点で5600件に増強されました。

同社の親会社は「医療目的の検査を優先しているが、保険適用外の検査も一部で受託している。10月には1日当たり1万件まで検査能力を拡充する方針」とします。

●海外赴任者、家族に企業負担で検査

陰性証明の提出を入国時に義務づける国は多く、出張などで海外渡航するビジネスマンにとってなくてはならないものになっています。新型コロナの影響で他国への出張は減っていますが、海外事業の再開を目指し、社内でPCR検査ができる体制を整える企業も増えています。

日立製作所(東京都)は7月から、都内と茨城県にある社内の診療所計3カ所で、海外出張を控える社員の検体採取を始めました。産業医が社員の鼻から検体を採取し、外部の検査機関に送る仕組みで、医療機関などに行かなくても社内で陰性証明が取得できます。費用は会社が全額負担します。

現在、同社は海外出張を必要最低限に抑えていますが、担当者は「海外事業を円滑に再開するのに役立つだけでなく、感染防止の徹底につながる」と期待しています。

三菱商事(東京都)も6月から、社内の診療所でPCR検査が受けられるようになりました。海外出張は原則見合わせており、当面は海外駐在員として赴任予定の社員約400人を対象に検査を行います。陰性証明がいらない場合でも、検査してから送り出すことにしているといいます。担当者は「社員の安全確認はもちろん、派遣先で感染を拡大させない責務もある」と狙いを語ります。

すでに約130人が検査を受け、インドネシアや中国、オランダなどに出国しました。社員だけでなく、同行する家族が医療機関などで受ける検査費も三菱商事が全額をカバーするといいます。

●証明ないと入国できない国も 中小企業に負担

外務省のホームページ(8月28日現在)によると、イランやオーストリアなど陰性証明がなければ入国が認められない国や地域は多いです。台湾やカンボジアでは陰性証明に加え、入国後14日間の隔離を課すなどさらに厳重です。一方、アメリカやイタリアなどは陰性証明は不要だが、14日間の隔離が必須とされています。

陰性証明に疑問を感じる人(イラスト)陰性証明発行のためのPCR検査は自由診療で1回当たり2万〜4万円程度かかるとされ、企業にとっては大きな負担です。

日本商工会議所は7月末、「費用が高額で、中小企業が容易に活用できる環境にはない」として、ビジネス目的のPCR検査費の軽減や、検査の迅速化を国に求めました。

ある中小企業の担当者は「ただでさえコロナ不況で経営が傾く中、海外出張のたびに数万円の検査費を捻出するのは限界がある」と打ち明けます。

そもそも、陰性証明の意義に疑問を感じている人も少なくありません。大手製造業の社員は「検査の翌日に感染する可能性もあり、同じ飛行機に乗っている人がみんな陰性とも限らない。陰性証明があるからといって、現地に着いた際に本当に陰性が保証できるのか正直分からない」と話します。


毎日新聞科学環境部

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※掲載されている情報は2020年9月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。