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「危ないレシピ」に要注意 人気の「低温調理」で食中毒にならないために


ゆるめの熱でじっくり加熱する「低温調理」を楽しむ人が増えています。専用器具の登場で料理がしやすくなったこともあり、自宅で挑戦する家庭も増えてきました。ですが、かたまり肉を使用する場合、殺菌が不十分で食中毒になる危険性もあります。安全においしく楽しむための注意点を、専門家に聞きました。

その調理法大丈夫!?(イラスト)●見た目はおいしそうだけど…

大手レシピサイトで「低温調理」と検索すると、745件ものレシピがヒットしました。そのなかから、一般の人が投稿した、鶏肉料理のレシピを見てみましょう。

――鶏肉を一口大に切り、耐熱の保存袋に調味料とともに入れ、空気を抜きながらチャックします。鍋に水を入れ、沸騰したら火を止め、500ccの水を加えてから肉の入った保存袋を鍋に入れ、40分間置きます。時間がたったら、袋の中のお肉を水洗いして盛り付けます――。おいしそうな料理の写真はありますが、温度についての記述がどこにもありません。

また、あるラーメン店のサイトでは、低温調理で仕上げたという分厚いチャーシューが掲載されていますが、肉の色がかなり赤いです。

「加熱温度が書かれていないのは論外。また、設定温度が低すぎるような『危ないレシピ』や、きちんと熱が通っているのか心配になる料理写真が、ネット上には散見されます」と、食品安全技術などについて企業を支援しているロイドレジスタージャパンの今城敏(いまなり・さとし)取締役は指摘します。

●「ほとんど生の状態」提供する店も

低温調理は、肉などの食材を保存袋などに入れて真空状態にし、温度を一定に保って湯煎する調理法です。通常よりも低温で時間をかけて加熱することで、食材を食べた時に口当たりが柔らかくなります。一定の温度を保ったまま湯煎ができる専用器具の登場によって作りやすくなったこともあり、近年、飲食店のメニューとしても家庭料理としても人気が高まっています。

ですが、普及が進むにつれ、懸念が高まっているのが食中毒です。牛や豚、鶏などの生肉には、食中毒の原因となる大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなどが生息していることがあります。近年最も多いカンピロバクター食中毒の場合、厚生労働省によると年間約300件も発生し、患者数は約2000人にのぼります。

これらの菌は熱に弱く、加熱すれば殺菌できます。ですが、東京都健康安全研究センターによると、食中毒が発生した飲食店の調査で、提供された料理のなかに低温調理メニューが含まれている例が2018年ごろから目立つようになりました。食中毒はどの料理が原因か特定できないことも多く、低温調理メニューが原因と断定されたわけではありません。ただ、調査をすると、低温調理をうたう料理には加熱が足りないケースも少なくなく、ほとんど生の状態の料理も見られたといいます。

大事なのは中心温度(イラスト)●大事なのは「中心温度」

では、家庭料理で「低温調理」と「加熱による殺菌」を両立するにはどうすればよいのでしょうか。今城さんによるとポイントは、@「肉の中心部分」が、A殺菌効果のある「温度」と「時間」で加熱できているか――の2点です。

殺菌効果を持たせるための目安として厚生労働省が示しているのは、「75度で1分」加熱することです。一方、低温調理の場合、著名な料理本には、食材が柔らかく仕上がる理想的な加熱温度は「58〜65.5度」と記されています。

75度と58度では、17度も差があります。これを埋めるのが、時間です。低温で調理する場合、加熱時間を延ばすことで、同等の殺菌効果が得られるとされています。

「75度で1分」と同等の効果がある加熱の目安について、たとえば東京都千代田区は、「71度で3分」「63度で30分」との基準を公表しています。今城さんによると、計算上は、58度だと「126.5分」になるといいます。高温なら1分でできるところを、低温だと2時間以上も加熱する必要があるわけです。

ここで注意すべきは、熱が肉の中心部分に届いていなければ意味がないということです。そこで、用意してほしいのが「中心温度計」である。しばらく加熱した時点でいったん袋を開け、肉の中心に温度計を差し込み、柔らかさを確保できる上限近い温度63〜65度になっているかどうかをチェック。その後袋を閉じて、温度を保ったまま所定の時間加熱します。大事なのは、温度をチェックした時点から、加熱の時間をカウントすることです。

もちろん手やまな板、包丁などはしっかり洗って清潔にし、新鮮な食材を使います。そして初心者はまず、野菜、魚から始め、慣れてきてから鶏肉・牛肉へとステップアップするのがよさそうです。

今城さんは、「豚肉やひき肉、内臓やジビエは、高温でないと殺せないウイルスが見られることから、家庭での低温調理では避けた方が無難です」とアドバイスした上で、こう呼びかけます。「低温調理のおかげで料理の幅が増え、家庭でも楽しめるようになって、食卓が豊かになったことはすばらしいことです。ただし、危険なネットのレシピや、不十分な知識で提供しているお店もある。しっかりと温度管理をした上で、安全に楽しんでほしい」


毎日新聞統合デジタル取材センター

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