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健康を脅かすプラ製品の添加剤


食品のトレーやペットボトルなど、日用品の素材として多用されているプラスチック。ですが最近の研究で、劣化などを防ぐため添加された有害な化学物質が生物の体内で溶け出し、生殖機能や免疫に影響する恐れのあることが分かってきました。

様々なプラスチック製品(イラスト)◆品質向上のため利用

プラスチックは石油から作られる合成樹脂です。加工しやすく、軽くて安価なため、1950年代以降、ガラスや金属に代わって急速に普及しました。新型コロナウイルスの感染対策に使われている、飛沫(ひまつ)防止のパーティション(間仕切り)やフェースシールドなどにもプラが用いられています。

プラを分子レベルで見ると、炭素と炭素が1本の腕(電子)でつながる「単結合」で構成されています。紫外線を吸収すると結合が切れもろくなるため、劣化を遅らせる紫外線吸収剤のほか、軟らかくする可塑(かそ)剤、燃えにくくするための難燃剤などが添加されています。東京農工大の高田秀重教授によると、これらの添加剤は重量にしてプラ製品の約7%を占めますが、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)として生物に悪影響を与える化学物質を使用しているものが多いといいます。

環境ホルモンが生物の体内に入ると、本来の性ホルモンの働きを阻害するなどして、乳がんや子宮内膜症の増加や精子数の減少など生殖機能に異常を及ぼす恐れがあります。例えば可塑剤に使われているフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)は、子供の性的な成長の早熟、遅延を起こします。加えて、体内への異物の侵入を抑えるために粘膜の細胞同士を結合させるたんぱく質の合成を阻害し、免疫力の低下も引き起こす作用もあります。

また、紫外線吸収剤に使用されるベンゾトリアゾールの一種などは、生物にとって異物である化学物質を排出する機能を強め、ビタミンなどの代謝に必要な成分も壊すことで免疫力を下げてしまいます。

魚介類に蓄積するマイクロプラスチック◆魚介類に蓄積

近年は、マイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻化しています。マイクロプラを食べた魚介類が有害な添加剤を体内に取り込み、さらにそれを捕獲して食べた海鳥、さらに人間の生殖機能や免疫に影響を与えることを高田教授は懸念します。

マイクロプラは路上や海岸に不法投棄されたプラが雨に流されて海に入り、紫外線や波によって砕かれて5ミリ以下の断片になったものです。回収は難しく、生物の組織に接触することで炎症を起こしたり、海に溶け込んでいるポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質を吸着したりすることでも知られています。

高田教授らは2020年に、プラの粒に添加剤を塗り込んで海鳥に食べさせると、体内の脂肪や肝臓から添加剤が検出されたと発表しました。プラは疎水性で、水には溶けにくいが油には溶けやすいです。海鳥の胃で脂分を含んだ消化液にプラが触れたことで、添加剤が溶け出したとみられます。

また、東京農工大と北海道大の調査では、難燃剤と紫外線吸収剤を練り込んだマイクロビーズを取り込ませたプランクトンを魚に食べさせると、魚の身の部分から難燃剤が、肝臓から紫外線吸収剤が検出されました。添加剤は、食物連鎖を通して生態系を汚染するだけでなく、人の健康も脅かします。

◆不十分な規制

高田教授は、プラ添加剤の規制のあり方が不十分だと指摘します。現在は、水に溶け出すかどうかを調べる溶出試験を基に規制されていますが、含有試験に切り替える必要があると主張します。「これまで有害な物質が入っていても、溶け出さなければ問題ないとされてきた。マイクロプラに汚染された魚介類を食べれば、ヒトの体に添加剤が入っていくだろう」

一方、「安全性があまり調べられずに野放しで使われている添加剤もある」とも指摘します。20年4月、紫外線吸収剤として使われているベンゾトリアゾール系の添加剤に、環境ホルモンの作用があることを中国科学院大学が明らかにしました。高田教授らが日本で市販されている10種類のペットボトル飲料のキャップを調べたところ、全てでこの添加剤が検出されました。この種の添加剤には、水に溶け出すものもあります。

日本学術会議の環境リスク分科会は20年4月、環境省に、マイクロプラの添加剤などによる生態系やヒトへの悪影響の調査▽プラの総排出量の低減▽海洋プラ回収の有効な方法の開発――を提言しました。この提言や高田教授によると、欧州の成人男子の精子数が過去40年間で半減しているという疫学調査があり、プラに含まれる化学物質も要因の候補に挙げられているといいます。


毎日新聞科学環境部

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