お役立ち情報/情報ものしり帖


アルツハイマー病、期待高まる新薬


認知症の高齢者は国内に約500万人いるとされ、高齢者の7人に1人に上ります。現時点で根本的に治したり、確実に予防したりする方法は見つかっていません。大部分を占めるアルツハイマー病に今夏、画期的な新薬が誕生する可能性があり、注目されています。

新薬開発(イラスト)●発症抑制の可能性

認知症は、何らかの原因によって脳の神経細胞が壊れたり、働かなくなったりすることで認知機能が低下し、生活に支障を来す状態を指します。6〜7割がアルツハイマー病という不可逆的な脳の病気が原因で、脳にたんぱく質の「ごみ」がたまることで神経細胞が死滅し、思考や記憶の機能が損なわれるとされています。

このたんぱく質のごみを除外し、脳内に蓄積するのを防ぐことができれば、アルツハイマー病の発症を抑制できる可能性があります。世界中の研究者が注目したのは、患者の脳内に蓄積していることが分かっている「アミロイドベータ(Aβ)」というたんぱく質です。その中で、米バイオジェンとエーザイが抗体薬「アデュカヌマブ」を共同開発し、昨年7月、Aβを標的とした薬として米食品医薬品局(FDA)に世界で初めて承認申請しました。国内では昨年12月、厚生労働省にも薬事承認を申請しています。

アデュカヌマブは脳内にたまったAβを人工的な抗体で排除する点滴薬です。両社によると、1年半の臨床試験で、投与した患者のAβが、アルツハイマー病と診断されていない人と同じ程度にまで減ることを確認。認知症の評価基準で、記憶力や判断力、コミュニケーション能力が衰えるスピードを2割、食事や排せつ、着替え、入浴など日常生活のそれを4割遅らせるとの結果も出たといいます。Aβを病の原因物質とするのはまだ仮説ですが、Aβの減少で症状の改善が見られました。

FDAは、6月7日までに承認の可否を判断するとしています。ただ、昨年11月に開かれたFDAの諮問委員会は、有効性の評価について「根拠が不十分だ」と否定的な見解を示しました。

もしかして認知症?(イラスト)●困難な治療薬開発

アルツハイマー病は、科学的根拠のある予防法や治療法こそありませんが、承認された薬はあります。国内では1999年にエーザイが発売した「アリセプト」が代表例で、多くが脳内の情報の伝達を担っている「神経伝達物質」を増やすことで脳の機能回復を目指します。

しかし、病が進行すると神経細胞そのものが死滅します。これらの薬を服用しても1年程度で効果が期待できなくなるといいます。世界の大手製薬企業は神経細胞が死ぬのを防ぎ、認知症を治す新薬開発に取り組んできました。しかし発病の仕組みが解明されておらず、開発は難航。治療薬は2011年以降、誕生していません。

アルツハイマー病は発症するまでに、20年もの時間がかかるとされているからです。医薬品開発に詳しいSMBC日興証券アナリストの田中智大氏は「20年間投与したうえで、効果を評価しなければならない。開発資金は巨額で、経営リスクを一企業が抱えるのは不可能だ」と指摘します。

現在、臨床試験の最終段階を迎えているアルツハイマー病治療薬はアデュカヌマブを含めて4種類。いずれもAβを標的とした薬です。田中氏は「アデュカヌマブが承認されなければ、Aβ仮説そのものへの期待が失われる恐れがある。新薬は相当遠のくのではないか」と懸念します。

「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事は「根本的な治療薬は認知症の人と家族にとって待ちに待ったものだ」と期待します。しかし、症状が進んだ人にも使えるのかなど不明な点も多いです。鈴木さんは「新薬によって、認知症が治療可能と理解されるようになり、イメージが大きく変わることを願いたい」と話します。


毎日新聞くらし医療部

Copyright© 2003 - 2021 Kyoei Fire&Marine Insurance Co.,Ltd. All rights reserved
※掲載されている情報は2021年5月時点での情報であり、最新の情報と異なる場合があります。