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複合的な災害、影響が深刻化


地球温暖化(イラスト)豪雨や農作物の品質低下など、国内でも地球温暖化の影響が顕在化しています。環境省が公表した最新の「気候変動影響評価報告書」では、洪水と土砂災害といった「複合的な災害影響」の深刻さを指摘。一方、企業や自治体にとっては対策に必要な情報が十分ではないという課題も残ります。

●「評価報告書」改訂し警鐘

今年7月に発生から3年を迎える西日本豪雨は、気象庁が個別の豪雨で初めて、温暖化が一因との見解を示した災害です。72時間の積算雨量が観測史上1位を更新したのは近畿、中国地方を中心に計123地点、全国の雨量観測地点の約1割を占めるほど、影響は広範囲に及びました。

中国地方などでは、山間部での土砂崩れや、河川の洪水が相次ぎました。土砂などで河川がせき止められてできた「天然ダム」が決壊したとみられるケースや、農業用のため池が崩壊し、集落に濁流が押し寄せたケースもあり、多様な災害が組み合わさったことが大きな特徴となりました。人命や人家への影響にとどまらず、産業への影響も未曽有でした。

この豪雨は、停滞する梅雨前線に、非常に多量の水蒸気が長時間、南から流れ込み続けたことが原因でした。気象庁気象研究所などの分析によると、温暖化によって流れ込む水蒸気量が1割弱増えたと試算され、温暖化が被害を底上げした可能性が指摘されます。

環境省は2015年、こうした豪雨など既に起こっている温暖化の影響や、将来の予測についてまとめた「気候変動影響評価報告書」を初めて公表しました。その後、18年施行の気候変動適応法で5年ごとに作成することが定められ、20年末に5年ぶりに改訂しました。

報告書は最新の研究データなどを基に作られ、自治体や企業などが温暖化の被害軽減策「適応策」を進める動機付けにしてもらう狙いがあります。今回は前回の約2.5倍となる1261に及ぶ文献を引用しました。

改訂版は、17年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨や台風21号、19年の東日本台風などを踏まえ、洪水と土砂災害、洪水と高潮といった複合的な災害の影響を新たに盛り込んだところが大きな特徴です。報告書によると、大雨に伴う土砂崩れの中でも岩盤まで巻き込んで崩れる「深層崩壊」は、このまま温暖化が進むと21世紀末には現在より3割増すと試算されます。

産業への影響についても新たな評価が多数加わりました。07年公表の国連の気候変動に関する政府間パネルの報告書に基づき、21世紀末に世界の海面が平均59センチ上昇するとした場合、東京湾周辺での製造業の生産損失は約8兆円に上るとされます。観光面では、温暖化で原生林が減って白神山地(青森、秋田両県)の世界遺産登録が抹消された場合、観光客は34%減り、年約786億円の損失が予測されています。

土砂崩れ(イラスト)●地域ごとの情報が不足

影響予測に関する情報は増えていますが、企業や自治体が報告書の情報を基に具体的な対策を計画、実施するうえではまだ課題が多いです。企業へのリスク情報の提供を行うMS&ADインターリスク総研の寺崎康介・マネジャー上席研究員は「企業はピンポイントの場所の影響を求めている。国の情報は降雨など気象面は充実しているが、地域ごとの災害情報が少ない」と指摘。「現在の企業価値に影響するのは10〜20年後のデータで、2050年以降はあまり影響しない。近い将来のデータも充実させる必要がある」と強調します。

こうした状況は自治体も同様です。毎日新聞が20年、全国の都道府県と政令市を対象にした調査で、地域で適応策を推進するために必要だが入手できないもの(複数回答)を尋ねたところ、「ごく近い将来の予測(5年程度先)」が7割超と最多で、次いで「市町村単位での予測」でした。

報告書の取りまとめで「自然災害・沿岸域」分野などの座長を務めた中北英一・京都大防災研究所教授(水文気象学)は「既に温暖化の影響が顕著に出ていること、このままでは今後、さらに大変な被害が起こりうることが分かってきた。社会的な影響は大きく、災害発生メカニズムの研究などを進めるとともに、いつ被害が起こってもおかしくないという前提で各分野で対策を進める必要がある」と話します。


毎日新聞科学環境部

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